読めそうで読めない漢字 / 第100回
「所以」は何と読む?「人気の所以」をゆえんと読む理由
「所以」は「ゆえん」と読みます。理由、わけ、そうである根拠を表す言葉です。「長く愛される所以」は、長く愛される理由という意味になります。
場所を指す「所」と、範囲などを表す「以」が並んでいますが、一字ずつの身近な意味から読む語ではありません。「所以」は「なぜそうなのか」を説明する、少し改まった言い方です。
なぜ「所以」を「ゆえん」と読む?
「ゆえん」は、漢文を日本語で読む中で使われた「ゆえになり」などの形から生まれたと説明されています。「ゆえんなり」という音の変化を経たとする説があり、詳しい成り立ちには説明の違いもあります。
「故」は「ゆえ」と読み、理由やわけを表す言葉です。「ゆえん」も、この「ゆえ」とつながる語として捉えると理解しやすくなります。漢文の「所以」を日本語で読み下す形が、現在の言葉に残っているのです。
「所」を単独で「ゆ」、「以」を「えん」と読むわけではありません。「所以」は二文字全体で覚える表記です。日常的に使う機会が少なければ、「理由」と置き換えて意味を確かめると、読み違いを防げます。
「人気の所以」は何を説明する言葉?
「注文を受けてから仕上げる丁寧さが、この店の人気の所以だ」。この文は、店の人気を支える理由を述べています。「人気の所以を探る」なら、なぜ人気があるのかを調べるという意味です。
「人気だから人気がある。それが人気の所以だ」では、理由を説明したことになりません。「所以」を入れると文章が引き締まって見えますが、理由の中身まで補ってくれるわけではありません。
「読み返すたびに新しい発見がある。そこが、この作品が長く読まれる所以だ」。こう書けば、理由と評価の関係が分かります。実在の作品や店について書くなら、根拠がある説明なのか、自分の感想なのかも意識しておくと丁寧です。
「〇〇たる所以」の「たる」は何を表す?
「彼が名手たる所以」は、彼が名手である理由、名手と言われるだけの根拠という意味です。「たる」は、この形では「である」に近く捉えられます。
「最後の一音まで崩れない。その集中力に、名手たる所以を見た」。ただ上手だったという感想より、その人の評価を支える特質を見いだした響きになります。
「人の人たる所以」のように、あるものをそのものとして成り立たせている特徴を問う使い方もあります。哲学的、論説的な調子になりやすいため、軽い紹介文に多用すると重く感じられます。「名手と呼ばれる理由」と言い換えても、基本的な内容は伝えられます。
「由縁」も「ゆえん」と読むが意味の広さが違う
「由縁」も「ゆえん」と読み、事の起こりや由来、わけのほか、関係やゆかりを表します。理由やわけの意味では「所以」と重なるため、二つを完全に別の意味だと分けることはできません。「ゆかり」と読む用法もありますが、読みだけで機械的に区別するより、何を説明しているかを見ることが大切です。
たとえば、「作家がこの町を訪れた理由」と「作家とこの町とのつながり」は、関連していても同じ内容ではありません。「作家が町を愛した所以」を説明するなら、景色や人々など、愛した理由が続きます。「作家ゆかりの町」なら、滞在や創作との関係を伝えます。
「所以」の前にどんな内容があるかを確かめると、言葉が浮きません。「長く使えるのは、部品を交換できるからだ。それが支持される所以でもある」のように、理由を具体的に示してから結ぶと自然です。「所以」「理由」「根拠」を重ねすぎず、一つ選ぶだけでも文章はすっきりします。