読めそうで読めない漢字 / 第104回
「言質」は「げんしつ」でもいい?「言質を取る」の意味と含み
「言質を取られないように気をつける」。見慣れた二つの漢字ですが、「言質」はまず「げんち」と読む言葉です。文章の出来や、話す内容の質を指すわけではありません。
意味は、後になって証拠となる言葉。「あのとき、そう言いましたよね」と確かめる根拠になる発言です。読み方に加えて、「言質を取る」と表現することで生まれる含みも見てみましょう。
「質」は品質のことではなく、約束のしるし
「質」は「品質」「音質」のように「しつ」と読むことが多い字ですが、「言質」では「ち」と読みます。ここでの字の意味は、約束のしるしとして押さえておくものに通じます。
「次の大会までに修理を終えると、担当者から言質を得た」なら、修理時期についての発言を、後から確認できる根拠として受け止めたということです。「担当者の言葉遣いを評価した」という意味ではありません。
「げんしつ」を載せる辞書もあります。漢字ペディアは「ゲンチ」を掲げたうえで、「ゲンシツ」とも読むとしています。基本の読みを覚えるなら「げんち」ですが、別の読みが辞書にどう扱われているかも確かめずに、聞いた相手を一律に訂正するのは避けたいところです。
「発言を聞く」と「言質を取る」は何が違う?
同じ言葉を聞いても、それを後で証拠として使おうとするかどうかで、表現が変わります。
「来週には返せると思います」と相手が言ったとします。「来週には返せる見込みだと聞いた」なら、相手の見通しを伝えています。「来週返すという言質を取った」と書くと、返却を確約させたような印象が強くなります。
けれど、元の発言は「思います」です。確約したと決めつけると、相手の言った内容を変えてしまいます。「言質」という語を使えば、曖昧な返事が自動的に約束へ変わるわけではありません。
- 「言質を取る」:後の根拠になる言葉を相手から得る。
- 「言質を与える」:後で根拠にされる発言をする。
- 「言質を取られる」:発言を相手に押さえられたと捉える。
「取られる」には、発言した側が不利になったという気持ちが重なることがあります。ただし、必ずだましたり、無理に言わせたりする行為を意味するわけではありません。
普通の確認なら「約束を確認する」で足りることも
打ち合わせの後に「本日は言質を取らせていただきました」と送ると、相手の逃げ道を塞ごうとしているように響くかもしれません。合意した内容を整理することが目的なら、確認事項そのものを書くほうが穏やかです。
「本日のお話では、修理完了の予定は来週金曜日とのことでした。認識に違いがありましたらお知らせください」。この文では、いつ、何を確認したいのかが分かります。
「金曜日までに必ず完了する」との約束があったなら、その言い方も含めて正確に書きます。予定、希望、確約は同じではありません。「言質を取った」という評価より、実際に交わした内容を示すほうが、双方で確認しやすくなります。
「言質を与えない」は何も話さないこと?
「まだ決まっていないので、言質を与えないようにした」という文は、後で確約の根拠にされる発言を避けたという意味で読めます。ただし、何も答えないことだけが方法ではありません。
「現時点では日程は未定です」「決定後に改めてご連絡します」と、分かっている範囲を明確にする返事もできます。曖昧な期待を持たせず、未確定であることを伝える言い方です。
「言質」は、約束や発言をどう受け止めたかを表す語です。誰が何と言ったのか、その言葉はどこまでの意味だったのかを押さえると、読み方だけでなく使いどころも見えてきます。