正しい敬語 / 第23回
「ご期待に添えず」と「ご意向に沿えず」はどちらで断る?
「ご期待に添えず」は期待された結果を出せないときに、「ご意向に沿えず」は相手が示した希望や方針に応じられないときに使えます。どちらも断りやお詫びに使う表現で、丁寧さの上下で選ぶものではありません。
結果への期待には「ご期待に添えず」
仕事の依頼を受けたものの、必要な人員を確保できなかった場合なら、次のように書けます。
お声がけいただき、ありがとうございます。ご指定の期間に担当者を確保できず、今回のご依頼はお受けできません。ご期待に添えず、申し訳ございません。
この「期待」は、相手がこちらに望んだ働きや結果を指します。依頼内容を細かく復唱せず、お詫びを添えられるのが定型表現の便利なところです。
ただ、「ご期待に添えず」だけでは、見積もり、納期、依頼そのもののどれを断ったのか分かりません。何を受けられないかは、定型句の前後に具体的に書きます。
明確な希望には「ご意向に沿えず」
相手から「納品を来週金曜に早めてほしい」と言われているなら、「ご意向に沿えず」が使えます。「納品日の前倒しは難しく、当初の予定どおり再来週月曜のお届けとなります。ご意向に沿えず、申し訳ございません」と書けば、断っているのが前倒しの希望だと分かります。
もちろん、この場面で「ご期待に添えず」と書いても、直ちに誤用になるわけではありません。希望が実現することへの期待とも捉えられるからです。相手の希望が具体的なら、それを指す「ご希望に沿えず」も自然です。
「ご意向」は、発言や文面などから相手の考えが分かっている場合に向きます。まだ意見を聞いていない相手にまで、その意向を決め付けて書く必要はありません。
「期待は添う、意向は沿う」と厳密に分ける?
この組み合わせはよく使われますが、漢字だけで正誤が決まるわけではありません。小学館『デジタル大辞泉』の「沿う」は、方針や基準に従う意味では「添う」「副う」とも書くとしています。
「ご期待に沿えず」を見つけて、必ず「添えず」に直す必要はありません。社内で表記を決めているならそれに合わせ、特に決まりがなければ、文章の中でそろえればよいでしょう。
断りのメールで相手がまず知りたいのは、依頼がどうなったかです。別の日程なら対応できるのか、今回は全体を断るのか。そこを明記したうえで、お詫びの一文を選びます。