間違えやすい日本語 / 第32回
「火蓋を切って落とす」は正しい?「幕を切って落とす」との混同
「決勝戦の火蓋が切って落とされた」と書いたら、「決勝戦の火蓋が切られた」に直すのが標準的です。「火蓋を切る」と「幕を切って落とす」は、それぞれ別の慣用句です。「火蓋」と「切って落とす」を組み合わせるのは、混同とされる言い方です。
どちらの表現も物事の始まりに使うため、混ざっていても意味は伝わります。けれど、試合の紹介文や広報文を整えるなら、定着した組み合わせを使えば迷わずに済みます。
火蓋は「切る」まででよい
「全国大会の火蓋が切られた」「両候補が選挙戦の火蓋を切った」のように使います。勝負や争いがいよいよ始まる場面に向いた、勢いのある表現です。
辞書編集者の神永曉さんも、ジャパンナレッジの解説で「火蓋を切って落とす」を取り上げ、「幕を切って落とす」との混同から生まれた可能性を指摘しています。実例があることを紹介したうえで、従来の形は「火蓋を切る」だと説明しています。
火蓋は、火縄銃で火薬を入れる部分を覆うふたです。「切る」は、それを開いて発射に備える動作に由来します。ふたを切断して落とすという意味ではありません。由来を覚えなくても、原稿では「火蓋が切られた」までにすれば形を整えられます。
「幕を切って落とす」と書く場合
「新たな挑戦の幕が切って落とされた」なら、「幕」と「切って落とす」の組み合わせになっています。ただし、新店舗の営業開始や会議の開催まで、すべてこの調子で書く必要はありません。
| 伝える場面 | 書き方の例 |
|---|---|
| 優勝を争う大会の開幕 | 全国大会の火蓋が切られた。 |
| 大きな計画の始動を印象的に伝える | 新たな挑戦の幕が切って落とされた。 |
| 日程を知らせる | 新企画は10月から始まります。 |
たとえば「来週、意見交換会の火蓋が切られます」とすると、意見が激しく対立する会のようにも読めます。穏やかな話し合いを案内するなら「意見交換会を開きます」が合います。
「切って落とす」を削れば済む文もあれば、比喩ごと替えたほうが目的に合う文もあります。決勝戦の熱気を伝えたい一文なら、「いよいよ決勝戦の火蓋が切られた」で十分に始まりを表せます。