間違えやすい日本語 / 第85回
「いい加減」は悪い意味だけ?ちょうどよい加減との見分け方
「いい加減にしなさい」と言われたら、ちょうどよく仕上げればよいという意味ではありません。「もうやめなさい」という注意です。「いい加減」は、ほどよい程度、無責任な態度、もう十分な状態などを表し、文の形によって意味が変わります。 「いい」という字があるから褒め言葉だとも、いつでも悪口だとも決められません。
「よい加減」と「いい加減な説明」は違う
湯に手を入れて「いい加減になった」と言うなら、温度がちょうどよいという意味になります。料理の「塩加減がいい」も同じく、程度がほどよいという肯定的な説明です。
ところが、「いい加減な説明だった」なら、説明が不正確だったり、必要なことを確かめていなかったりするという批判になります。「いい加減な人」と言えば、信頼できない、責任を持たないという人物評価になりやすい表現です。
温度や味の話なら文脈からほどよさを読み取れますが、人や仕事を「いい加減」と評して、よい程度だと伝えるのは難しいことがあります。褒めたいなら「無理のないペースで進めている」「力を入れるところをよく選んでいる」のように、具体的な姿を言葉にした方が確かです。
「いい加減に」は雑にする意味にもなる
「書類をいい加減に確認した」なら、十分に確認せず済ませたという意味です。「適切な程度で確認した」という意味で書くと、意図が逆に伝わるおそれがあります。
確認の範囲を絞ってよいと伝えるなら、「今回は氏名と日付だけ確認してください」と書けます。完成前の原稿なら「細かな言い回しは後で直すので、まず構成を確認してください」と伝える方法もあります。作業を省く理由や残す範囲が分かれば、「雑でよい」と受け取られずに済みます。
反対に、本当に不注意な作業を指摘する場面でも、「いい加減にやらないで」だけでは、何を直せばよいかが分かりません。「入力した数字を元の資料と照合してください」と伝えれば、必要な行動が明確になります。
「いい加減疲れた」はどれくらい疲れた?
「三時間も歩いて、いい加減疲れた」。この文では、疲れ方がいい加減なのではなく、かなり疲れた、もう十分だという気持ちを表しています。「いい加減待ちくたびれた」「いい加減あきらめた方がいい」のように、程度や限度に関わる使い方です。
「いい加減な時間に帰る」は時刻をきちんと決めず帰るようにも読めますが、「いい加減、帰ろう」は、そろそろ帰るべき頃合いだという話になります。区切りや前後の会話が意味を助けています。
文章では声の調子が伝わらないため、「そろそろ帰ろう」「かなり疲れた」と替えると読み違いを減らせます。もとの言い方を誤りとして消す必要はありませんが、場面がない短い連絡では具体的な語を選ぶ方が通じやすいでしょう。
「いい加減にして」は強い制止になる
何度も同じ話を続ける相手に「いい加減にして」と言えば、やめてほしいという強い気持ちが伝わります。途中までなら許せるが、それ以上は受け入れられないという表現です。
「いい加減にしてください」と丁寧な形にしても、制止の強さが消えるわけではありません。穏やかに話を終えたいなら「この話はここまでにしませんか」、音を下げてほしいなら「音量を下げてください」と、望む行動を直接伝えられます。
もちろん、相手が繰り返し迷惑な行為をしているときに、強い制止が必要なこともあります。「いい加減」は禁止すべき語ではありません。その一言で、ほどよさを言うのか、不十分さを批判するのか、やめてほしいのか。自分の目的に合っているかを確かめて使う言葉です。