間違えやすい日本語 / 第82回
「懸命」と「賢明」はどう違う?頑張ることと判断のよさを分ける
「けんめいな判断でした」と褒めるなら「賢明」。「最後までけんめいに走った」と書くなら「懸命」です。「懸命」は力を尽くすこと、「賢明」は考えや判断が賢く適切であることを表します。 頑張ったかどうかと、よい判断だったかどうかは、別々に言えることです。
「懸命」は結果より取り組む姿を伝える
「選手たちは逆転を目指して懸命に走った」。この文で伝えているのは力を出し尽くす姿です。試合に勝ったかどうか、走り方が最もよい方法だったかまでは述べていません。
「担当者が原因を懸命に調べている」「子どもがほどけたひもを懸命に結ぼうとしている」も同じです。まだ問題が解決していなくても使えます。努力の様子を見ている語なので、「失敗したから懸命とは言えない」と考える必要はありません。
一方、「懸命に対応しました」と説明するだけでは、受け手に必要な結果が伝わらないことがあります。どこまで対応したかを知らせたいなら、「原因を調べ、現在は部品の交換を進めています」のような具体的な報告を添えます。努力を伝える文と、進み具合を伝える文は役割が違います。
「賢明」は状況に合う判断を評価する
「大雨の予報を受け、屋外での開催を見送ったのは賢明だった」。ここでは、一生懸命考えた時間の長さではなく、状況を踏まえた判断を評価しています。すぐに決めたことであっても、適切なら「賢明」と言えます。
「疲れているなら、今日は休む方が賢明です」という文も自然です。休むこと自体に努力は要りませんが、無理を続けない選択をよいと考えているわけです。「懸命に休む」と書けば、休もうと全力を尽くすという別の意味になってしまいます。
ただし、人に向かって「賢明な判断ですね」と言うと、こちらが相手の判断を採点するように響く場合があります。感謝を伝えたいなら、「早めに判断していただいたので、予定を調整できました」と、助かった点を述べる言い方もできます。
頑張りと判断は同じ文の中でも分けられる
二つの語を並べると、違いがよりはっきりします。
「懸命に説得したが、今回は話し合いを中断するのが賢明だと考えた」。前半は説得に力を尽くしたこと、後半は中断を適切だと判断したことです。途中でやめたから、それまでの懸命さが否定されるわけではありません。
逆に、「徹夜で懸命に準備したが、もっと早く相談する方が賢明だった」とも書けます。努力した事実を認めながら、方法には改善の余地があったと振り返る文です。「懸命だったのだから正しかった」と結論を急がずに済みます。
人の働きを評するときも、「難しい状況で最後まで対応した」と「状況に合わせて方針を変えた」を分けると、何を評価しているかが相手に伝わります。
「一生懸命」と「一所懸命」はどう扱う?
「一生懸命」は、力の限り努力するという意味で定着した言い方です。「一所懸命」もあり、もともとは一か所の領地を命懸けで守ることに由来します。現在はどちらも力を尽くす意味で使われ、「一生懸命」を誤りとして直す必要はありません。
普段の文章なら、「最後まで一生懸命練習した」で十分自然です。由来を知っていることを示すためだけに「一所」に替える必要もありません。
変換で迷ったときは、その文で伝えたいのが「力を尽くした」なのか、「判断が適切だった」なのかを確かめます。「賢明に走り続けた」と入力していたなら、知恵を働かせた走り方を特に言いたいのでない限り、「懸命に走り続けた」が意図に合います。