本文へ移動
LINTO日本語の校正と推敲

読めそうで読めない漢字 / 第90回

「玄人」は「くろうと」。なぜ「黒い人」と読めそうなの?

「玄人」は「くろうと」と読みます。ある分野の知識や技術に優れた人、その道を職業としている人を指します。「玄人の目」「玄人向けの道具」といった使い方をします。

「玄」には実際に「くろ」「くろい」という意味があります。ただし、現代の「玄人」は人の肌や服の色を言う言葉ではありません。「玄人」は、その道をよく知り、技術を身につけた人を表します。

「玄」と「くろうと」の関係

「玄米」「幽玄」などに使う「玄」の字には、黒い色のほか、奥深い道理という意味もあります。いつも「玄」を「くろ」と読めるわけではなく、「玄人」は二文字を合わせた読み方を覚える言葉です。

「くろうと」の語源には諸説あります。対義語の「素人」が「白人」に由来し、それに対する「黒人」が「くろうと」へ変化したという説明もあります。もっとも、字の色から「手を黒く汚して働いた人だから」などと、独自の由来を作ることはできません。

現在は「玄人」と「素人」を対にして、専門性や経験の有無を表します。「くろうと」の「と」は濁らない形が一般的です。「苦労人」は「くろうにん」で、苦労を重ねた人のことです。音が似ていても、文章の中では別の意味になります。

「プロ」「専門家」とどう使い分ける?

「プロ」は、そのことを職業として行う人を指す場面でよく使います。「専門家」は、特定の分野の知識や技能を備えた人です。「玄人」もこれらと意味が重なり、知識や腕前を評価する文脈によく合います。

「この仕上がりは玄人の仕事だ」と言えば、技術の確かさを褒める響きがあります。「専門家に相談した」なら、専門知識を持つ人へ相談したことを落ち着いた調子で伝えられます。

三つの語に、必ず守るべき上下関係があるわけではありません。「専門家より玄人の方が上」といった序列もありません。役職や資格を正確に伝えたい文章では、その肩書きを具体的に書く方が適している場合があります。

「玄人受け」は一般の人に不評という意味?

「玄人受け」は、その分野に詳しい人から好まれたり、高く評価されたりすることです。「玄人好み」は、詳しい人が好みそうな性質を表します。どちらも、一般の人に嫌われるという意味を必ず含むわけではありません。

「派手な装飾はないが、使うほどに工夫が分かる玄人好みの道具だ」。ここでは、見た目よりも使い勝手や細部の工夫に価値を置いています。「玄人好み」とだけ書くより、どこが評価されるのかを添えた方が、初めて見る人にも伝わります。

「玄人向けの解説」は、前提となる知識を持った読者を想定した解説です。単に分かりにくい文章を、好意的に言い換えたものではありません。難しい用語が多いなら、何の知識が必要なのかまで示すと親切です。

「玄人はだし」は玄人本人への言葉ではない

「玄人はだし」は、専門家も顔負けするほど、技術などが優れていることを表します。「趣味で焼くパンは玄人はだしの出来栄えだった」なら、職業にしていない人の腕前を高く評価しています。

実際に専門家が靴を脱ぐ場面ではなく、玄人がかなわないほどだという比喩です。「玄人はだしのプロ職人」のように、すでに本職の人を指すと、誰と何を比べているのか分かりにくくなります。その場合は「熟練の技」「見事な腕前」で十分でしょう。

なお、「素人だから分からないでしょう」と人に向けると、知識の差を見下す言い方に聞こえることがあります。玄人と素人は能力全体や人の価値を分ける言葉ではなく、ある分野との関係を表します。「この分野に詳しい方にも楽しめる」といった表現なら、専門性を伝えながら幅広い読者を迎えられます。

自分の文章を校正する登録なしで200文字まで無料で使えます。
すべてのコラムを見る