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LINTO日本語の校正と推敲

読めそうで読めない漢字 / 第69回

「嗜む」は「たしなむ」。少し楽しむだけの意味ではない?

「嗜む」は「たしなむ」と読みます。酒や芸事などを好んで親しむこと、ある程度の心得があることを表します。「お酒は嗜む程度です」と言えば控えめな答えに聞こえますが、「嗜む」という語そのものが、必ず少量だけを意味するわけではありません。

「好んで親しむ」と「心得がある」

「嗜」は、好むことに関係する字で、「嗜好」の「嗜」でもあります。「嗜好」は「しこう」と読み、好みのことです。「嗜む」は同じ字を日本語の「たしなむ」として使っています。

「嗜む」は、好んで親しむことや、芸事などの心得があることを表します。 「祖父は若い頃から謡曲を嗜んでいた」なら、謡曲に継続して親しみ、ある程度の心得があったという意味です。一度聞いたことがあるだけ、という説明ではありません。

「休日には書を嗜む」「茶道を嗜んでいる」のようにも使います。芸事だけに限定される語ではありませんが、改まった自己紹介や人物紹介で使うと、落ち着いて趣味に親しむ印象が出ます。単に「やったことがある」の代わりに使うと、経験の深さを実際以上に伝える場合があります。

「嗜む程度」はどのくらい?

「お酒は嗜む程度です」は、酒を飲むが、量は多くないという控えめな答えとして使われます。ただし、どの量を「程度」と見るかは人によって違い、この表現だけから杯数は分かりません。

「酒を嗜む人」という紹介なら、酒を好む人という意味で、少量しか飲まないことまで確定しません。「嗜む」自体を「少しだけ」と覚えると、このような用例を狭く読んでしまいます。

相手が用意する量を知りたがっている場合には、「一杯ほどいただきます」「今日は飲みません」と具体的に答えるほうが目的に合います。嗜む程度という表現は、親しみ方を控えめに伝えるのには使えますが、正確な量を知らせる文ではないのです。

「趣味にする」「愛好する」との違い

「趣味にする」は、楽しみとして継続することを広く表せます。「庭仕事を趣味にしている」は自然な説明です。「庭仕事を嗜んでいる」とすると、より改まった、少し気取った調子に聞こえる場合があります。

「愛好する」は、好んで親しむ意味で嗜むと近い語です。「古い映画を愛好する」なら、その分野を好むことが直接伝わります。「古い映画を嗜む」も意味は理解できますが、文体によっては自分の趣味を上品に見せようとする印象が出ることがあります。

「ピアノを嗜みます」と言うと、ある程度弾けることが想定されやすくなります。「最近習い始めました」なら、始めたばかりの状況が明確です。嗜むを使うかどうかは、趣味が高尚かどうかで決まるのではなく、経験や親しみ方をどう伝えるかに関わります。

「身だしなみ」の「たしなみ」も同じ?

「たしなみ」には、趣味や芸事の心得だけでなく、慎みや日頃の心掛けを表す使い方もあります。「身だしなみ」は、服装や髪などを見苦しくないよう整えることに関係する言葉です。嗜むには、慎む、気を付けるという意味もあり、好みだけの語ではありません。

ただし、現代の会話で「少したしなみなさい」と言えば、好きな趣味を始めるよう勧めているのではなく、行いを慎むよう注意していると読まれます。何を嗜むのか、周りの言葉を見て意味を判断します。

似た音の「たしなめる」は、「窘める」と書くと、相手によくない点を注意することです。「茶を嗜む」「無作法をたしなめる」と並べると違いが見えます。ただし、「嗜む」の可能形も「嗜める」になるため、音だけで一律には区別できません。相手への注意なのか、何かを楽しめるという話なのかを、対象から読み取ります。

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