読めそうで読めない漢字 / 第70回
「窘める」は「たしなめる」。「叱る」ほど強くない?
「窘める」は「たしなめる」と読みます。相手のよくない言動について注意し、戒めることです。「そんな言い方をしないよう、たしなめた」なら、相手の発言をそのままにせず、改めるよう注意したという意味になります。
「叱る」より穏やかな場面に使われる
「たしなめる」は、よくない点を指摘して注意することです。 「子どもが大声を出したので、館内では声を落とすようたしなめた」といえば、興奮して怒鳴るのではなく、行動を控えるよう注意した場面を想像できます。
「叱る」も間違いやよくない行動を注意することですが、強い口調で責める場合もあります。「たしなめる」は、穏やかに言い聞かせる場面に使われやすい語です。ただし、この語を選べば実際の注意が必ず優しかったことになるわけではありません。
「厳しくたしなめる」という形もあります。よくないとする判断は明確に伝えながら、怒鳴りつけるような叱り方はしない、という場面もあります。叱るとの違いを、声の大きさだけで機械的に決めることはできません。
「窘」の字と「嗜む」を見分ける
「窘」は、苦しむ、困る、行動を戒めることに関係する字です。現代の日常文では漢字を使わず「たしなめる」と書くことも多く、平仮名でも自然です。古い文章では、苦しめるという意味で使われることもあります。
「嗜む」は「たしなむ」で、酒や芸事を好んで親しむことなどを表します。「母は書を嗜む」は趣味の説明ですが、「母が書を窘める」では同じ意味になりません。たしなむと、たしなめるは、音が似ていても現在の使い方を別に覚える必要があります。
「失礼な言い方をたしなめる」「酒を嗜む」と、対象と一緒に覚えると区別しやすくなります。「嗜める」と書いて、注意する意味の「たしなめる」に使うのは避けたいところです。
「諭す」「諫める」と比べると
「諭す」は「さとす」と読み、道理を説明して、相手が理解できるように言い聞かせることです。「なぜ順番を守るのか諭した」なら、理由を丁寧に説明する部分に重点があります。「割り込まないようたしなめた」は、よくない行動への注意を表します。
「諫める」は「いさめる」。相手のよくない行いや考えを改めるよう忠告することで、目上の相手に対しても使われます。「無理な計画を進めようとする責任者を諫めた」なら、その判断を変えるよう働きかけています。
たしなめるは、年長者や上の立場の人から注意する場面を想像させやすい語です。「後輩にたしなめられた」と書けば、立場が逆転した意外さも感じられます。親しい者同士の軽い注意を「たしなめた」と描くことはできますが、完全に対等な情報交換のように響くとは限りません。
実際の言葉を添えると注意の強さが分かる
「友人の言い過ぎをたしなめた」という説明だけでは、どんな注意だったのか分かりません。「本人がいないところで決めつけるのはやめよう、とたしなめた」とすれば、注意の中身が伝わります。
「父は、客の話を遮った息子を短くたしなめた」なら、「まず最後まで聞こう」といった言葉を続けると場面が具体的になります。「笑いながらたしなめた」も、相手との関係によっては自然な描写です。ただし、笑っていたから傷つけていないとまでは言えません。
自分が相手へ直接書く文で「あなたをたしなめたい」と切り出すと、相手を下に置くように受け取られることがあります。「その言い方だと、事情を知らない人が誤解するかもしれません」と、問題になっている内容を示す方法もあります。たしなめるは、注意した行為を後から説明するには便利ですが、実際の対話では具体的な言葉を選ぶほうが伝わりやすい場面があります。