読めそうで読めない漢字 / 第72回
「貶す」は「けなす」。評価が低いことと悪く言うことの違い
「貶す」は「けなす」と読みます。悪い点をことさらに取り上げ、非難することです。「作品を貶した」と言えば、作品の良し悪しを落ち着いて検討したというより、悪く言ったという意味に受け取られます。低い評価を述べることすべてが、貶すことになるわけではありません。
悪い点ばかりに目を向ける「貶す」
「貶す」は、欠点を取り上げて悪く言うことです。 「形が古い、色も地味だと、贈り物を貶した」という例では、贈り物の欠点ばかりを挙げています。贈った人の気持ちや、品物のよさを確かめる態度は読み取りにくい文です。
「自分の作品を褒めるために、他人の作品を貶す」なら、他人を下げることが目的になっています。「けなす」と平仮名で書くことも自然です。読み手が漢字で立ち止まりそうな文章なら、無理に「貶」の字を使う必要はありません。
反対の意味として「褒める」が挙げられますが、褒めなかったから貶した、とは限りません。何も評価しないことや、判断を保留することもあります。「貶す」は、悪く言うという行為を表す語です。
「批評」との違いは結論の高低だけではない
「批評」は、物事の良い点や悪い点を検討して論じることです。批評の結果として、厳しい評価になることもあります。「この展示は文字が小さく、説明を読みづらい」と具体的に述べるなら、改善につながる指摘として読むことができます。
「こんな展示は見る価値がない」とだけ言えば、理由が分からず、作品を貶していると受け取られやすくなります。批評と貶すの違いは、よい評価か悪い評価かだけではなく、何を根拠に、どのように述べているかにもあります。
もっとも、「理由さえ付ければ、何を言っても貶すことにならない」とは言えません。相手を傷つけるために欠点を集めることもあるからです。実際のやり取りでは、目的や表現、相手との関係も含めて考える必要があります。
「貶める」は読み方が変わる
「貶める」は「おとしめる」と読みます。「けなめる」ではありません。人の評価や価値を低く扱ったり、低い状態へ落としたりする意味で使われます。「相手の名誉を貶めるような発言」という文では、悪口を言う行為だけでなく、相手の評価を下げる作用に目が向いています。
「貶す」と「貶める」は、同じ「貶」の字が使われ、意味にも重なりがあります。「貶」の字には、価値を下げる、けなすことに関係する意味があるためです。送り仮名の違いを見れば、同じ読みをそのまま当てはめてはいけないと分かります。
「貶める」は「陥れる」とも音が似ていますが、表している内容はいつも同じではありません。文章を読むときには、人の評価を低くする話なのか、苦しい立場へ追い込む話なのかを、前後から確かめます。
不満を伝えるなら対象を絞る
「相手を貶さずに意見を言う」という場合、無理にすべてを褒める必要はありません。「説明の順序が分かりにくかった」「予約時の案内と当日の条件が違った」と、問題のあった点を具体的に書けます。
「あなたは雑な人だ」では人格全体への評価になりますが、「この欄の日付が前回のままです」なら確認できる事実です。「いつもひどい」と大きくまとめるより、「今回の案内では集合場所を見つけられなかった」と範囲を絞ることもできます。
一方、「批判された」と感じた側も、すべてを「貶された」と捉えると、役立つ指摘を受け取りにくくなる場合があります。文章では、何が言われたかを先に示すと、読み手もそれが意見なのか侮辱的な悪口なのかを考えられます。「貶す」という短い言葉には話し方への否定的な評価があるため、他人の発言を紹介するときにも、実際の中身に合わせて使いたい語です。