読めそうで読めない漢字 / 第93回
「趣」は「おもむき」。雰囲気と意味、二つの使い方
「趣」は「おもむき」と読みます。「趣のある庭」のように、しみじみとした味わいや風情を表すほか、様子や感じ、意図する内容を表す意味もあります。
「趣」と見たら、すべて「よい雰囲気」に置き換えればよいわけではありません。「趣がある」は味わいを評価し、「趣が異なる」は様子や性質の違いを述べる場合があります。
「趣がある」は何を褒めている?
「趣がある」は、眺めたり触れたりするうちに、味わいやおもしろみを感じるという表現です。「雨にぬれた石畳に趣がある」なら、ただ濡れているだけでなく、その景色を好ましく見ています。
古いものや静かな風景に使う印象がありますが、古さは必須条件ではありません。「新しい建物にも、木の表情を生かした趣がある」と書くこともできます。新築であっても、落ち着きや味わいを感じたなら使えます。
「趣のある店だった」とだけ書くより、「窓辺に古い器が並び、夕方の光が差していた」と添えると、感じたものが読み手にも伝わります。「趣」は書き手の評価なので、その評価につながる景色があると、文章に手触りが出ます。
「趣を異にする」は悪い意味ではない
「昼の庭と夜の庭では、趣が異なる」。この場合は、様子や感じが違うという意味です。どちらかが優れている、片方には味わいがないという意味ではありません。
「この作品は、前作とは趣を異にする」なら、作品の性格や調子が違うと読めます。明るい物語から静かな物語へ変わったのか、語り方を変えたのかは、この一文だけではまだ分かりません。
「前作は会話が中心だったが、今回は風景描写に多くの頁を割いている」と続ければ、違いを具体的に示せます。「趣が異なる」は比較の入口として便利ですが、違いの中身を代わりに説明してくれる言葉ではないのです。
話の「趣」は、伝えたい内容を指す
「お話の趣は理解しました」という文では、風情を感じたという意味にはなりません。話の意図や内容を理解したということです。現在の会話では少し硬く、改まった印象になります。
「趣旨」の「趣」も、考えやねらいに関わる字です。「趣意」「趣旨」は、何をしようとしているのか、何を言おうとしているのかを表します。一方、「趣味」「興趣」では、おもしろみや味わいとのつながりが見えます。
「趣」という語は、動詞「おもむく」の連用形からできたものと説明されています。ある方向へ心が向かうことと、物事の意味や味わいを表すことが、一つの語の中に重なっています。字を見ただけで一つの訳語に固定しない方が、文脈を読み取りやすくなります。
「趣」「趣き」「雰囲気」の選び方
一般的な表記は、送り仮名を付けない「趣」です。「趣き」という形を見かけることもあり、辞書の見出しでも確認できますが、文章の表記をそろえるなら「趣」に統一すると迷いが減ります。
「雰囲気」は、その場から感じられる様子を広く表します。「険悪な雰囲気」「和やかな雰囲気」のように、人の集まりにもよく使います。「険悪な趣」と置き換えると収まりが変わるので、すべての場面で交換できるわけではありません。
「夕暮れには、昼とは違う趣が生まれる」は、風景の味わいを語る文です。「話し合いの雰囲気が変わった」は、場の空気を伝える文です。「趣」を使うと少し文章的な響きが加わりますが、難しい漢字を使うこと自体が目的ではありません。感じた味わいを書くのか、様子の違いを述べるのか、意図を確認するのか。その見極めで一字の意味が決まります。