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LINTO日本語の校正と推敲

読めそうで読めない漢字 / 第94回

「赴く」は何と読む?「行く」よりも行き先を意識する言葉

「赴く」は「おもむく」と読みます。ある場所や方角に向かって行くことです。「現地に赴く」「任地に赴く」のように、向かう先を意識した表現によく使われます。

人の移動以外にも、「快方に赴く」のように、物事がある方向や状態へ進む意味があります。「赴く」は、場所へ向かう場合にも、状態が変わっていく場合にも使える言葉です。

「赴く」の意味と「面向く」という成り立ち

「おもむく」は、「背く」に対する「面向く」の意味と説明されています。「おも」は顔や表に関わる語で、その方に向くという意味が読み取れます。「赴」の字にも、ある方へ向かって行く意味があります。

「赴任」は「ふにん」で、任命された勤務先へ行くことです。「赴く」を覚えるときにも、「任地に赴く」と結びつけると意味がつかみやすくなります。

「事情を確かめるため、本人が現地に赴いた」。この文では、目的を持ってその場所へ行ったことが伝わります。ただし、「赴く」そのものに、遠くまで行く、長く滞在する、必ず重要な使命がある、という条件まで含まれるわけではありません。

「行く」「出向く」と比べたときの響き

「行く」は日常的で幅広い言葉です。「店へ行く」「友人に会いに行く」のように、特別な改まりを感じさせずに使えます。「赴く」にすると、移動を少し文章的、改まった調子で述べられます。

「出向く」は、目的の場所へ自分から行くことを表します。「電話では分からなかったので、店に出向いて確認した」なら、自ら足を運んだことが前に出ます。「店に赴いて確認した」とも言えますが、日常の店とのやりとりには少し大げさに響く場合があります。

「明日、会場に行きます」を「明日、会場に赴きます」に変えても、それだけで敬語になるわけではありません。改まった語と敬語は別です。相手との関係に応じて敬語が必要なら、「伺います」「参ります」などが場面に合うかを考えます。

「快方に赴く」「心の赴くままに」の意味

「快方に赴く」は、状態がよい方へ向かうことです。行き先が住所のある場所ではなく、「快方」という状態になっています。「徐々に快方に赴いていると聞き、安心した」のように使います。

「心の赴くままに描く」は、気持ちが向かう方向に任せて描くという意味です。「赴く」が、足で移動することだけを指すのではないと分かる例です。

「旅先では予定を詰めず、心の赴くままに歩いた」なら、そのとき興味を引かれた方へ進む姿が浮かびます。ただ「気まぐれに歩いた」とするより、内面の動きに従うという、やや文学的な響きがあります。報告書では「その場で行き先を決めた」の方が明快な場合もあります。

「趣く」と「赴く」はどう考える?

辞書には「趣く」という表記も載っています。「趣」の字にも、向かうという意味があります。「趣がある」の「趣」は「おもむき」で、形が近いのには意味上のつながりがあります。

ただし、一般的な文章で動詞を書くなら「赴く」を選ぶと読みやすくなります。「赴くは身体、趣くは心」と、二つの表記を厳密に分けなければならないわけではありません。「心の赴くままに」も自然な表記です。

「若い画家は海辺の町に赴き、数週間滞在した」「案内役に続いて展示室へ赴いた」。どちらも場所へ向かう例ですが、普段の連絡なら「行った」「向かった」で十分な場合があります。目的地や心の方向を少し丁寧に描きたいときに「赴く」を選ぶと、言葉の持つ落ち着いた調子が生かせます。

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