読めそうで読めない漢字 / 第55回
「拙速」は速いから褒めている?読み方と評価が変わる場面
「拙速」は「せっそく」と読みます。出来はよくないものの、早いことです。「拙速な判断を避ける」と言えば、十分に検討せず急いで決めることを避けるという意味になります。「速」が入っていても、単純に速さを褒める言葉ではありません。
「拙」は出来の不十分さを表す
「拙」は「拙い」と書いて「つたない」と読み、上手でないことを表します。「拙作」のように、自分の作品をへりくだっていうときにも使われます。「拙速」では、その「拙」と速度の「速」が合わさり、出来と速さの二つの面を一緒に述べています。
「拙速」は、仕上がりが十分でないが早いことを表し、早くて優れているという意味ではありません。 「迅速な対応」は単にすばやい対応を評価できますが、「拙速な対応」と言うと、配慮や確認が足りない対応だったという受け止め方になります。
「急いだ」という事実だけから「拙速だった」とは決まりません。必要な確認を済ませたうえで早く動いたなら、「迅速」「速やか」と書くほうが正確です。速さと出来を切り分けて読む必要があります。
「拙速な決定」が批判になる場面
「利用者への説明がないまま決めたのは、拙速だった」という文では、早さそのものではなく、説明や検討を十分に行わなかった点を批判しています。「関係者の意見を聞かずに閉館日を決めるのは、拙速ではないか」も同じです。
「準備不足のまま始めた展示は、拙速な企画だと指摘された」と言えば、急いだために内容が粗くなったことを表せます。ただ、批判する文章では「拙速」の一語だけで済ませず、案内が間に合わなかった、展示物の説明が不足したなど、具体的な問題を続けると根拠が伝わります。
反対に、早い決定に納得できないという理由だけで「拙速」と呼ぶと、判断の質を確かめずに批判したことになりかねません。準備がどこまで済んでいたのか、何が抜けていたのかを見て使いたい語です。
「巧遅より拙速を選ぶ」という考え方
「巧遅」は「こうち」と読み、出来はよいが遅いことです。拙速と対比させて、完全を目指して時間がかかるより、不十分でも早く形にするほうを選ぶという考え方が語られることがあります。ここでは、拙速の「拙」がよい意味に変わったわけではありません。
たとえば、催しの案内で装飾を仕上げるのに時間をかけるより、日時と場所を先に知らせたほうが役に立つ場合があります。「体裁を整えるより、まず必要事項を知らせることを優先した」ということです。拙速を選ぶ説明では、何を後回しにし、何を守ったかが重要になります。
この考え方を、どんな場面でも「雑でよい」と受け取るのは行き過ぎです。名前や日付の正確さまで捨ててよいという話にはなりません。速さを優先できる部分と、初めから確かめるべき部分があるからです。
褒めたいときは別の言葉を選べる
「早く送ってくださって助かりました」と伝えたい相手に、「拙速なご対応に感謝します」と書くのは避けたいところです。感謝のつもりでも、出来が悪かったと述べています。「迅速なご対応に感謝します」「早速ご対応くださり、ありがとうございます」なら、意図が素直に伝わります。
自分の原稿を「拙速なものですが」とへりくだる言い方も可能ですが、相手には不十分なまま渡したという印象が残ります。「まず構成をご確認いただくため、図版を除く原稿をお送りします」と、今の段階を具体的に伝える方法もあります。
「拙速を避ける」と述べるときにも、「確認するまで結論を保留する」「試行の結果を見て決める」のように、その先の進め方を書けます。遅ければ丁寧、早ければ拙速と決まるのではありません。何を確認できていて、どこが足りないのかまで含めて判断する言葉です。