間違えやすい日本語 / 第144回
「渡りに船」はただの幸運?ちょうどよい助けが現れたときに
会場まで荷物を運ぶ方法に困っていたところ、「車で運びましょうか」と声をかけられた。まさに「渡りに船」の申し出です。必要としているときに、ちょうどよい助けや条件が得られることを表します。 単に運がよかったというだけでなく、そのときの困りごとや希望との合い方が大切です。
渡りたいときに船が来るような好都合
「会場を探していたところ、知人から空いている部屋を紹介され、渡りに船だった」。必要な場所が見つかったタイミングのよさを表しています。
「説明を頼める人を探していたので、その申し出は渡りに船でした」も自然です。申し出た人の存在や力が、こちらの必要にぴったり合ったという感謝につながります。
「渡りに船」は、必ず窮地に陥っていなければ使えない言葉ではありません。「散歩に行きたいと思っていたところへ誘いが来た」など、望んでいたことに都合のよい条件がそろった場合にも使えます。ただ、何が好都合だったかがあると伝わりやすくなります。
「棚からぼた餅」とは苦労の有無が違う
「棚からぼた餅」は、苦労せず思いがけない幸運を得ることです。「渡りに船」は、必要に合う助けが現れたことに重点があり、自分がそれまで努力していたかどうかを否定しません。
何週間も会場を探していた末に紹介を受けたなら、「渡りに船」がよく合います。「棚ぼたでした」と言えば、それまでの努力や、紹介した人の働きまで偶然の幸運にまとめたように聞こえる場合があります。
「怪我の功名」は、失敗などがよい結果へつながることです。会場の予約を間違えた結果、かえってよい場所が見つかったなら使える可能性があります。「渡りに船」は、失敗が前提にならない点が違います。
相手へのお礼に使うときは助かった内容を添える
「渡りに船です。お願いします」とだけ返しても意味は通じますが、相手にとっては何が助かったのか分かりにくいことがあります。「運ぶ方法に困っていたので、本当に助かります」と添えると具体的です。
「渡りに船」と言うこと自体が失礼なわけではありません。ただ、相手の都合や負担を確かめずに、好都合だから全部頼めると受け取るのは別問題です。「荷物は三箱ありますが、お願いしても大丈夫ですか」と範囲を確認できます。
「渡りに船のお申し出をありがとうございます」と改まって書くこともできますが、日常のやり取りなら「ちょうどお願いできる方を探していました。ありがとうございます」で自然です。難しい慣用句を使わなくても、タイミングのよさと感謝は伝えられます。
好都合なのは誰にとってかを明確にする
「その変更は渡りに船だった」と書く場合、自分に都合がよくても、ほかの人には負担だったかもしれません。全員にとってよい変更だと断定しないことが大切です。
「自分は翌日の方が都合がよかったので、延期の連絡は渡りに船だった」と書けば、誰にとって好都合だったかが分かります。公式な案内で「延期は渡りに船でした」とだけ書くと、困っている参加者への配慮を欠いた印象になる場合があります。
また、他人の困りごとで自分に機会が回ってきた場合、その人の前で「渡りに船」と喜ぶと、相手の不利益を歓迎しているように聞こえることがあります。事実を説明する文なら、「空いた日程で開催できることになりました」と中立的に書けます。
ちょうどよい助けを得たうれしさを表すには便利な言葉です。その助けを誰が用意してくれたのか、相手はどこまで引き受けられるのかにも目を向けると、「都合がよかった」という感想だけでなく、具体的なお礼として伝えられます。