本文へ移動
LINTO日本語の校正と推敲

間違えやすい日本語 / 第123回

「歯に衣着せぬ」は褒め言葉?率直さと無遠慮の境目

「歯に衣着せぬ人」と紹介されると、率直で頼もしい人にも、遠慮のない人にも聞こえます。「歯に衣着せぬ」は、思ったことを包み隠さず、ずけずけと言う様子です。 正直さを評価する場合もあれば、言い方の厳しさを表す場合もあり、褒め言葉と決まってはいません。

「衣」は言葉を包む服のたとえ

読みは「はにきぬきせぬ」です。「きぬ」は衣服の「衣」で、素材の「絹」ではありません。歯を衣で覆うように言葉を包むことなく、率直に出すという表現です。

「歯に衣着せぬ批評」は、気兼ねして言葉を濁さない批評です。人が言いにくい問題を指摘する場面で、肯定的に使われることがあります。

ただ、内容が正しいことまで保証する言葉ではありません。「歯に衣着せぬ発言」と評されていても、根拠が薄かったり、相手の事情を確かめていなかったりする場合はあります。率直な言い方と、発言の正確さは分けて見ます。

率直さを褒めるなら何を言ったかを添える

「問題点を歯に衣着せず指摘してくれたおかげで、準備を見直せた」。この文なら、率直さが役立った理由まで伝わります。厳しい言い方だけを褒めているわけではありません。

「彼は歯に衣着せぬ人です」とだけ紹介すると、相手は身構えるかもしれません。よさを伝えたいなら、「必要なことは遠慮せずに伝え、修正案も一緒に考えてくれる人です」と具体化できます。

評論などでは「歯に衣着せぬ物言いで知られる」と書くこともあります。その場合も、何を根拠にそう評しているかが大切です。一度強く言っただけで、その人の性格全体を決める表現にしない方が正確です。

「率直」と「無遠慮」の境目は内容にもある

「この案では費用の説明が足りません」は、問題を直接伝える率直な指摘です。「こんな案しか作れないのですか」は、案の不足だけでなく相手の能力を攻撃する文になります。

どちらも遠回しではありませんが、指している対象が違います。「歯に衣着せない性格だから」と断っても、人格を傷つける言い方が必要になるわけではありません。

意見をはっきり述べたいなら、「採用には賛成できません。期限までに必要な確認ができないためです」のように、判断と理由を示せます。語尾を曖昧にせず、相手自身への決めつけも避けられます。

優しい言い方を選ぶことも、必ずしも本音を隠すことではありません。「このままでは分かりにくいので、先に日時を示す形に変えませんか」と言えば、問題と提案を率直に伝えられます。

「遠慮なく言って」と頼むときにも範囲を示す

原稿を見てもらう際に「歯に衣着せず言ってください」と頼むことはできます。ただ、相手に強い言い方を求めるより、「読みにくい箇所や足りない説明を具体的に教えてください」と求める内容を示す方が、役立つ返事を得やすくなります。

「よい点も悪い点も知りたい」「内容に絞って見てほしい」など、確認してほしい範囲を添えることもできます。率直な批評を求めたからといって、私生活や人格まで評してよいという依頼にはなりません。

批評を受ける側も、口調が厳しかったことと、指摘に直すべき点があることを分けて考えられます。一方、必要以上に傷つく言い方なら、「修正点は確認しますが、人物への評価ではなく内容について話してください」と伝えて構いません。

「歯に衣着せぬ」は発言の包み隠さなさを表す語です。その率直さが役立ったのか、行き過ぎたのかまで書けば、人物や発言への評価を読み手に誤解されずに伝えられます。

自分の文章を校正する登録なしで200文字まで無料で使えます。
すべてのコラムを見る