間違えやすい日本語 / 第111回
「本末転倒」は順番を間違えること?目的と手段で考える使い方
節約のために遠い店へ行き、往復の交通費の方が高くついた。こんなときに「本末転倒」と言えます。「本末転倒」は、根本の大切なことと、枝葉のことを取り違える意味です。 単に手順が前後したというだけではなく、何を大事にするかが逆になっています。
「本」と「末」は物事の重要さの違い
「本」は根本、「末」は枝葉に当たる部分です。「本末転倒」は、先にしたことと後にしたことを文字どおり入れ替える話ではありません。中心にある目的や重要なことを忘れ、付随することを優先してしまう状況を表します。
「勉強する時間を作るため、予定表の作成に凝りすぎて勉強できなかった」は使える例です。予定表は時間を活用するための手段なのに、その作成自体が中心になっています。
「読みやすくするため文字を大きくした結果、必要な情報を削ってしまった」も、状況によって本末転倒と言えます。読者に情報を伝えるという目的より、一つの見た目の工夫を優先したためです。
ただ、何が根本かは場面によって変わります。予定表そのものを作品として作るなら、そこに時間をかけることは目的に合っています。外から見て無駄に見えるという理由だけで、この語を当てはめないようにします。
順番の間違いとはどう違う?
「先に宛名を書き、その後で便箋を選んだ」。順番として不便かもしれませんが、それだけでは必ずしも本末転倒ではありません。大事なことが逆転しているかどうかが、まだ分からないからです。
「出発の準備が済む前に、玄関で靴を履いた」なら、単に手順が前後したという説明で足ります。支度に支障が出たとしても、「手順が逆だった」「先に準備すればよかった」と具体的に言えます。
一方、「遅刻を防ごうとして必要な確認を全部省き、忘れ物で引き返して遅れた」なら、時間に間に合うという目的に対して、急ぐことを優先しすぎたと捉えられます。結果が逆になった理由まで示すと、「本末転倒」の意味が読み手にも伝わります。
「原因と結果を取り違える」とも少し違います。「雨が降ったから地面が濡れた」を逆に説明するのは因果関係の逆転です。重要な目的と枝葉の関係とは別なので、何でも本末転倒とまとめない方が正確です。
批判するときは何を守りたいのかを言う
「それでは本末転倒です」とだけ言われると、相手は自分の提案のどこを問題にされたか分からないことがあります。こちらが大切だと思う目的と、相手が大切だと思う目的が違う場合もあります。
会議を短くするために説明を省く案へ反対するなら、「確認を済ませるのが目的なので、時間を短くしても認識が揃わなければ困ります」と説明できます。「本末転倒」の一語より、何を守りたいのかが明確になります。
本末転倒かどうかは、目的が変われば変わる
相手の目的も聞けます。「今回は時間の短縮を優先していますか。それとも全員の合意を確認する場ですか」と尋ねれば、どこを基準に判断するかを共有できます。目的が違うまま、どちらが本末転倒かを言い合っても話は進みません。
自分の振り返りなら、「見栄えに時間をかけた結果、内容を確認する時間がなくなった。順序と時間配分を変えたい」と具体的に書けます。失敗を強い言葉でまとめるだけでなく、次に変える場所が分かります。
また、多少の遠回りがあったことを、すべて本末転倒と責める必要もありません。別の目的も満たしたかったのか、短期的には手間でも長期的には役立つのかで評価は変わります。節約の例なら、安い店へ行くこと自体が散歩の楽しみだった可能性もあります。
「何のためにしているのか」と「実際に何を優先したのか」が食い違っているときに使う語です。目的を一つ確かめるだけでも、単なる順番の話なのか、本当に重要なことを取り違えたのかが見えてきます。