本文へ移動
LINTO日本語の校正と推敲

読めそうで読めない漢字 / 第45回

「乖離」は「かいり」。「違い」より隔たりを感じるのはなぜ?

「乖離」は「かいり」と読みます。「理想と現実の乖離」という場合、理想と現実の間に隔たりがあるという意味です。単に違いがあるだけでなく、近づくはずのもの、結びつくはずのものが離れている感じを表します。

「乖」は背き離れるという意味の字

「乖」は、背く、離れることに関わる字です。「離」も離れることなので、「乖離」は似た意味の字を重ねた熟語と捉えられます。見た目が似る「乗」とは別の字で、「じょうり」とは読みません。

「乖離」は、関係する二つのものが離れ、間に隔たりができることです。 「説明と実態が乖離している」なら、説明された内容と実際のあり方が一致していません。現地で見た店が紹介写真と大きく違う、といった場面を考えると具体的です。

物理的な距離だけでなく、意見、感情、数値、方針などの隔たりにも使えます。改まった文章に向く語ですが、専門家だけが使う言葉ではありません。自分で書くときは、比較する二つを明確にすると意味が伝わります。

「差異」よりも離れた印象になる理由

「差異」は、違いがあるという中立的な言い方です。「二つの展示には照明の差異がある」は、明るさや色などが違うことを述べています。それだけなら、どちらかが望ましい状態から外れているとは限りません。

「計画と実績に乖離がある」では、実績が計画に近づくはずだという前提が感じられます。「住民の希望と整備方針が乖離している」も、両者のつながりが弱いことを問題として示しています。「乖離」は批判的な説明で使われやすいのですが、語そのものに「大きな差」と決まった量が入っているわけではありません。「わずかな乖離」と書くこともできます。

「齟齬」は、うまくかみ合わない食い違いを表します。「集合時間の認識に齟齬があった」なら、互いに違う時刻を理解していたという話です。「期待と実際の経験が乖離していた」なら、食い違いだけでなく期待からの隔たりを捉えています。重なる場面はあっても、強調点が違います。

「理想と現実」以外の自然な例文

「案内の内容が現場の対応から乖離している」では、書かれた約束と実際の対応を比べています。「若い世代の感覚と、作り手の想定が乖離していた」なら、受け手が求めるものを作り手が十分に捉えられていなかった、と読めます。

「予想した来場者数と実際の人数との乖離を調べた」という文では、数値の差を確認しています。この場合、違いがあったと分かっただけで予想が役に立たないとは決まりません。どの条件がずれたのかを調べるための説明です。

一方、「赤と青の色が乖離している」のように、もともと別のものをただ比べるだけなら「異なる」で足ります。「色見本と仕上がりの色が乖離している」とすれば、一致を期待した二つの比較だと分かります。同じ語でも、比べる対象の関係によって自然さが変わります。

「乖離を埋める」なら何を近づけるのか

「乖離を埋める」「乖離を小さくする」「乖離が広がる」はよく使える形です。ただし「実態との乖離を解消します」だけでは、説明を実態に合わせるのか、実態を説明どおりに改善するのかが分かりません。

「受付方法の説明を実際の手順に合わせ、案内と対応の乖離をなくします」と書くと、行うことが具体的になります。「理想と現実の乖離を感じた」という感想も、「静かな場所を想像していたが、通りの音が大きかった」と続ければ、その隔たりを読者と共有できます。

「乖離」という一語には、差の方向や原因までは含まれていません。難しい漢字で深刻さを演出するより、離れている二つと、その中身を書くほうが正確です。

自分の文章を校正する登録なしで200文字まで無料で使えます。
すべてのコラムを見る