削れる言葉を削る|回りくどい一文を意味へまっすぐ届かせる
「短縮を行うことが可能になる」は十三文字あります。「短縮できる」なら五文字。言っていることは同じで、差の八文字は、読む人が結論にたどり着くまでの遠回りの分です。社内の業務改善を提案する書類から。
本施策の導入により、問い合わせ対応にかかる時間の短縮を行うことが可能になると考えております。
丁寧に書こうとしているのは伝わります。ただ、この提案でいちばん言いたい「対応時間が短くなる」が、「短縮」「行う」「可能になる」の三段を抜けた先に置かれていて、読む側は三つを順にほどいてから中身に届きます。一拍遅れる文です。
本施策を導入すると、問い合わせ対応にかかる時間を短縮できると考えています。
効果も、断定を避けた言い方も、敬体も変わっていません。「短縮を行うことが可能になる」を「短縮できる」に戻し、「導入により」を「導入すると」にしました。削れる言葉というのは、外しても意味が変わらず、中身の手前に段を一つ増やしているだけの言葉です。 見分け方と、外してはいけない言葉の線引きが、この回の中身になります。
「〜を行う」は、「〜する」と言えるかを試す
提案書では、進め方や効果を丁寧に見せようとして、動作をいったん名詞にしてから別の言葉で受け直す形がよく出ます。「短縮を行う」「変更を実施する」「測定を行う」。「短縮」という名詞を作って、そこに「行う」を足す。読む人は、名詞になった動作を頭の中でもう一度動作に戻しながら読むことになるので、動作は動詞のまま見せたほうが中身に早く届きます。
導入の一か月後に、効果の測定を行います。
導入の一か月後に、効果を測定します。
いつ何をするかは同じで、動作が前に出ました。名詞に「行う」が付いていたら、その名詞に「する」を付けて言えるかを試し、言えるなら動詞に戻します。 「測定する」「変更する」「確認する」と言えるものは、戻せます。
保育園のお知らせにも、同じ形が紛れます。「持ち物の確認を行っていただきますようお願いいたします」は、「持ち物をご確認ください」で足りる。朝の忙しい保護者に読ませる文なら、短いほうが親切です。
ただし「行う」そのものが悪いわけではありません。「会議を行う」「式を行う」は、「会議する」「式する」とは言えないので、「行う」が要ります。実施項目の一覧に作業名として「効果測定を行う」と並べる場面でも、動作ではなく項目の名前として扱っているので、そのままでかまいません。試すのは「する」と言えるかどうかで、「行う」を機械的に消すことではありません。
結論を後ろにずらす言い方
実現できることを説明するとき、「することが可能です」という形になりがちです。間違いではないのですが、語数が増えたぶん、いちばん伝えたい「できる」が後ろにずれます。
この体制なら、既存の人員で運用することが可能です。
この体制なら、既存の人員で運用できます。
増員が要らないという含みは残したまま、「できる」が前に来ました。同じ中身なら、結論を後ろにずらさず先に見せたほうが、読む人は早く受け取れます。
「という」も、文を一つ遠くすることがあります。
コストが増えているという問題が、提案の背景にあります。
ここの「という」は、前の説明と「問題」の間にただ挟まっているだけで、外しても「問題」が直前の説明をそのまま受けられます。「コストが増えている問題が、提案の背景にあります」で、重さは変わりません。一方で、残すべき「という」もあります。
「まず小さく試してから判断する」という進め方を提案します。
こちらの「という」は、かぎかっこの中身を一つの「進め方」として束ねています。外すと「試してから判断する進め方」がつながりにくくなり、かえって読み直しが起きる。前の言葉を名詞へ束ねている「という」は残して、なくても自然につながる「という」だけを外します。
削ると約束が変わる言葉
ここまでは外す話でしたが、削ると意味そのものが変わる言葉があります。次の一文には、外してよい言葉と、外すと約束が変わる言葉が同居しています。
繁忙期につきましては、一部の対応が翌営業日となる場合がございます。
「につきましては」「となる場合がございます」と続くので、結局どうなるのかが語尾の連なりの先に置かれています。話題を示すだけの「につきましては」を「は」に、「ございます」を素の敬体「あります」にすると、こうなります。
繁忙期は、一部の対応が翌営業日になる場合があります。
丁寧さは保ったまま、装飾が減りました。ここで手を付けなかったのが「一部の」と「場合があります」です。試しに「繁忙期は、対応が翌営業日になります」まで削ってみると、すべての対応が必ず翌営業日になる、という約束に化けます。「一部の」は範囲を、「場合があります」は確実さを支えていて、これは装飾ではなく意味そのものなので削れません。 文を弱くしているように見える言葉のうち、「原則として」「目安」「必要に応じて」なども同じ側で、責任の範囲を正確にしています。
見分けに迷ったら、外す前と外した後を並べて読むのが確実です。意味も条件も丁寧さも減っていなければ、外してよかった言葉。約束が強くなったり、配慮が消えたりしたら、それは意味を支えていた言葉です。語尾や言い回しを好みでそろえても、読みやすさは変わりません。見るのは、動作が名詞の奥に隠れて結論が一拍待たされる場所と、「行う」「可能」「という」が挟まって段が増えている場所に限ったほうがいいと思います。
長く書いたほうが丁寧に見える、という感覚は根強くて、提案書のような書類ではとくにそうです。十三文字と五文字で伝わる中身が同じなら、短いほうを選んで失うものはない、と言い切りたいところですが、相手によっては「短縮できる」がぶっきらぼうに映ることもあるかもしれません。それでも「短縮を行うことが可能になる」まで戻す必要はなく、「短縮できると考えています」の語尾があれば、柔らかさは足ります。丁寧さは語数より、文末の形で決まることのほうが多いようです。
出す前に、さっと校正
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この連載の記事
- 前の回:同じ言葉の重複を減らす
- 次の回:曖昧な言葉を具体的にする
- 文章力編の入口:わかりにくい文章の特徴と直し方
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