間違えやすい日本語 / 第19回
「琴線に触れて怒る」は正しい?「逆鱗に触れる」との違い
「相手の琴線に触れて怒らせた」と書きたい場合、「琴線に触れる」は別の表現に替えた方がよいでしょう。「琴線に触れる」は、心を動かして感動や共感を与える意味で使います。 相手の弱点を突いたり、機嫌を損ねたりすることを指す言葉ではありません。
怒りを表す「逆鱗に触れる」と似ていますが、この二つは伝える内容が大きく違います。
「琴線に触れる」は心に響いた感想に使う
手紙に書かれた何気ない一言が、琴線に触れた。
この文では、その一言を受け取って心を動かされたことが伝わります。文化庁「ことば食堂」の解説も、怒りを買う意味と区別し、感動や共鳴を与える表現として説明しています。
必ず楽しい、うれしいという感情に限るわけではありません。悲しい物語の一節に深く共感したときにも使えます。ただ、「悲しくなった」「傷ついた」なら何でも当てはまるわけではなく、作品や言葉に心が響き合うような感動を表す文に向いています。
感想をもっと直接伝えたいなら、「あの場面に胸を打たれた」「主人公の言葉に深く共感した」とも書けます。
「逆鱗に触れる」は誰かを怒らせたときの言葉
「逆鱗に触れる」は、目上の人などを激しく怒らせることです。集英社イミダスの『会話で使えることわざ辞典』も、目上の人や上司の怒りに触れる意味を示しています。
不用意な発言が責任者の逆鱗に触れ、打ち合わせは中断された。
単に意見が食い違ったという程度より、強い怒りを示す言い方です。また、相手の怒りを大げさに表す響きもあるため、怒らせた本人への謝罪にそのまま使うと、責任の置き方が不自然になることがあります。
「逆鱗に触れてしまい、申し訳ありません」より、「配慮を欠いた発言をしてしまい、申し訳ありません」と書けば、自分が謝る行為を明示できます。
怒った理由を正確に書くなら
「友人の琴線に触れて怒らせた」を直すとき、必ず「逆鱗」に置き換える必要はありません。
「友人が気にしていることを不用意に話してしまった」「あの言い方が友人の気に障った」なら、関係や起きたことに沿って伝わります。繊細な話題だったのか、態度が不快だったのかで、選ぶ言葉は変わります。
作品に心を動かされたなら「琴線に触れた」。誰かを怒らせたなら、まず何が相手を怒らせたかを書く。この区別で、褒めているのか謝っているのかが逆になるのを防げます。