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LINTO日本語の校正と推敲

間違えやすい日本語 / 第20回

「おもむろに席を立つ」は急に立つこと?

「おもむろに席を立つ」は、急に立ち上がることではありません。落ち着いた様子で、ゆっくりと立つことを表します。 勢いよく席を蹴るような場面を書きたいなら、「急に」「勢いよく」などを選びます。

「それまで黙っていた人がおもむろに口を開いた」という文は、周りからすると唐突な発言にも見えます。それでも、「おもむろに」そのものが表すのは、突然さではなく落ち着いた動きです。

「おもむろに」と「急に」では動作が違う

次の二つを比べると、違いがつかみやすくなります。

話を聞き終えると、彼はおもむろに立ち上がった。

名前を呼ばれると、彼は勢いよく立ち上がった。

前者は、慌てずに動き始める様子です。後者は、反応の速さや勢いが中心です。どちらも「立ち上がる」ですが、描かれる動作は同じではありません。

文化庁の「『おもむろに』動く様子は急か」でも、「ゆっくりと」という意味を、辞書や具体的な文章から説明しています。「おもむろに」は、動き始める、振り返る、口を開くといった動作に付きやすく、その動作が突然行われる場合もあるため、取り違えが起こりやすいと考えられています。

予想していなかった人が、ゆっくり立ち上がることはあります。動きが始まったことは意外でも、その動き自体は落ち着いている。二つは矛盾しません。

全員が黙っていると、奥の席の人がゆっくりと手を挙げた。

このように書けば、意外な展開を「急いだ動作」に変えずに伝えられます。「おもむろに」を見つけるたびに「急に」と置き換えると、こうした違いが消えてしまいます。

また、立ち上がる人が怒っていたとしても、動作がゆっくりなら「おもむろに」は使えます。感情が怒りかどうかだけでは、言葉の適否は決まりません。

動作を記録するときの言い換え

会議の記録や出来事の説明で、細かな雰囲気が必要ないなら「発言の後、席を立った」で足ります。速度が重要なら「ゆっくりと立ち上がった」、突然の退席を伝えるなら「話の途中で突然席を立った」と書けます。

「おもむろに」は、改まった文章に見せるための飾りではありません。落ち着いて動き始めた様子を伝えたいときに残せばよく、動作が速かったのなら、その速さに合う言葉を使います。

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