読めそうで読めない漢字 / 第12回
「戦く」は戦うこと?送り仮名で変わる「戦」の読み方
「恐ろしさに戦く」と「風に木の葉が戦ぐ」。同じ「戦」の字でも、どちらも戦闘の話ではありません。前者は「おののく」、後者は「そよぐ」と読みます。
「戦く」は恐れなどで震えること
「戦く(おののく)」は、恐ろしさなどで体が震えることを表します。 「慄く」とも書きます。「戦」の字には、戦うことだけでなく、震えるという意味があります。
扉の向こうから聞こえた叫び声に戦いた。
この文は「おののいた」です。単に驚いたというより、恐怖で震えるほどの反応を描いています。「戦慄(せんりつ)」も、恐ろしさに震えることを表す熟語。こちらを思い浮かべると、「戦く」の字にも納得しやすくなります。
似た言葉の「わななく」は「戦慄く」や「戦く」と表記されることもあります。したがって、どの文章でも「戦く」の読みが一つに限定されるとは限りません。辞書の見出しや振り仮名がある場合は、それに従います。
「戦ぐ」は風に揺れて音を立てること
「戦ぐ(そよぐ)」は、風に吹かれた草木などが揺れ、かすかな音を立てる様子です。「恐れ」とは関係がありません。
| 表記 | 読みの例 | 描く様子 |
|---|---|---|
| 戦う | たたかう | 相手と争う |
| 戦く | おののく | 恐れなどで震える |
| 戦ぐ | そよぐ | 風に揺れてかすかに音を立てる |
| 戦慄く | わななく | 恐れや怒りなどで震える |
開けた窓の外で、竹の葉がそよいでいた。
こう平仮名で書いても、情景は変わりません。漢字では激しい戦いを連想してしまうのに、実際には静かな葉の動きも表せるところが、この字の意外さです。読みを決めるときは「戦」だけを見るのでなく、送り仮名と、何が動いているかを一緒に確かめます。
文の主語と原因を見れば読みやすい
「戦く」「戦ぐ」を音読するときは、誰が、何によって動いているかを見ると手掛かりになります。
大きな足音が近づき、子どもは恐怖におののいた。
夕風が吹き抜け、庭のすすきがそよいだ。
悔しさのあまり声が震え、唇がわなないた。
最初と三つ目は人の反応、二つ目は風による草の動きです。「震える」という共通点だけで一つの読みにはできません。「戦いにおののく」と書けば、戦闘に対して恐怖を覚える文になりますが、「戦く」という字そのものに戦場という条件があるわけではありません。
また、「おののいた」を「驚いた」に替えると、恐怖や震えの強さが弱まることがあります。「そよぐ」を「揺れる」に替えた場合も、風による細かな動きや音が、元の文ほどは伝わらなくなるかもしれません。読みが分かったあとには、その語で何を付け加えているかまで確かめられます。
振り仮名がない文章で迷ったとき
「戦く」には「おののく」「わななく」の表記が重なるため、文脈だけでは一つの読みに決められない場合があります。読み聞かせや朗読で正確さが必要なら、作品の振り仮名や辞書の用例を確認するのが確実です。
自分の文章では、読者に漢字の読みを推理させる必要がなければ、平仮名を選べます。「風にそよぐ木の葉」なら意味をすぐに取れますし、「恐ろしさにおののく」なら「たたかう」と取り違える余地がありません。
漢字の意外な読みを楽しむことと、読みやすい表記で書くことは両立します。難読表記を必ず使うより、読者に伝えたい場面が先に浮かぶかどうかで選べます。