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LINTO日本語の校正と推敲

間違えやすい日本語 / 第28回

「押しも押されぬ実力者」は正しい?

人物を紹介する文章では、「押しも押されもせぬ実力者」と書くと、辞書に示される標準的な形になります。 「押しも押されぬ」は避けるように案内されることがありますが、古くから使われた形でもあり、単純に「最近できた誤用」とは言えません。

長い形を使うかどうかに加えて、その人物の実力や地位を表す言葉として合っているかも確かめたいところです。

基本の形は「押しも押されもせぬ」

デジタル大辞泉は、「押しも押されもせぬ」を見出しにし、実力があり堂々としていること、どこへ出ても圧倒されないことを説明しています。

数々の受賞を重ね、今では押しも押されもせぬ第一人者となった。

このように、実績を積み、確かな立場を築いた人を述べるときに使えます。単に腕力が強いことや、他人を押しのけて前に出る性格を表す言葉ではありません。

短い「押しも押されぬ」を直す場合は、「もせ」を補った「押しも押されもせぬ」になります。「押されぬ」を別の語へ入れ替えるのではなく、慣用句全体の形を確かめます。

「押しも押されぬ」は昔からある言い方

辞書編纂者の飯間浩明氏は、文藝春秋の2025年12月のコラムで、「押しも押されぬ」が江戸時代の歌舞伎に使われていることを紹介しています。

昔の例があることだけで、全ての媒体が採用すべきだとは言えません。しかし、「近ごろ省略されて壊れた言葉だ」と決める根拠にもできないのです。同じコラムは、今の新聞などでは短い形が避けられることにも触れています。

したがって、自分の公表文では長い標準形を選び、過去の作品や発言にある短い形は、まずそのまま読むという扱いができます。

人物紹介で強すぎる評価になっていないか

「押しも押されもせぬ」は、実力や立場が揺るがないという強い評価です。初めて受賞した人を紹介するなら、その一度の受賞だけで「押しも押されもせぬ第一人者」と呼ぶのは大きすぎるかもしれません。「注目を集める若手」「初受賞を果たした作家」など、実績に合う言葉を選べます。

反対に、長年の実績があり、その分野で広く認められた人の紹介なら、「押しも押されもせぬ実力者」は使えます。慣用句の形を整えたあと、その評価を支える経歴が本文にあるかも確かめると、人物像と釣り合った紹介になります。

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