正しい敬語 / 第2回
「差し支えない範囲で」と「可能な範囲で」は何が違う?
取引先へ経緯を尋ねたい。ただ、すべてを話してもらえるとは限らない。そんな場面なら「差し支えない範囲でお聞かせください」が使えます。一方、過去の資料を探してもらうなら「可能な範囲でお送りください」と頼めます。
話すことに支障がない範囲を任せるなら「差し支えない範囲で」、作業や提供ができる範囲を任せるなら「可能な範囲で」が一つの目安です。どちらか一方しか使えない、という規則ではありません。
「差し支えない範囲で」は話せない部分を残せる
今後の参考にしたいため、今回見送られた理由を、差し支えない範囲でお聞かせいただけますか。
採用されなかった提案について尋ねる例です。理由の中には、他社との比較や未公表の方針もあるかもしれません。そのすべての説明を求めず、話せる部分を相手に選んでもらいます。
「差し支え」には、小学館『デジタル大辞泉』にもあるとおり、不都合や支障の意味があります。この例なら、詳しい事情を知っていても外へ出せない部分は、回答から省いて構わないという頼み方になります。「理由を全部教えてください」と添えれば、前置きとの間に食い違いが生じます。
資料の送付を頼む「可能な範囲で」
当時の資料が残っていましたら、可能な範囲でお送りいただけますか。新しく作成していただく必要はありません。
ここでは、手元にある資料だけを送ってほしいと伝えています。「可能な範囲で」だけでは、探すのに半日かけてもらうつもりなのか、すぐ取り出せるものだけでよいのか分かりません。最後の一文が、頼む作業の範囲を狭めています。
同じ資料でも、社外に出せる内容かを気にしているなら「社外への共有に差し支えない資料がありましたら」と書けます。実行できるかと、実行してよいか。そのどちらに配慮したいのかで文が変わります。
必要な連絡と、参考として尋ねたいことが混在する場合、すべてを「可能な範囲で」とまとめると、どれに答えればよいか伝わりません。
納品予定日については、10月9日までにお知らせください。遅延の経緯は、差し支えない範囲でお聞かせいただければ幸いです。
期限のある連絡と、答えられる分だけの説明を分けた例です。丁寧な前置きを重ねるより、回答が必要な部分と省いてよい部分を具体的に示す方が、相手は対応を決めやすくなります。