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「敷居が高い」の正しい意味|「高級で入りにくい」は誤用?

卒業してから一度も顔を出していない、部活の恩師の家。年賀状も途中で出さなくなって、もう何年になるのか。たまたま近くまで来たのに、玄関の前で足が止まる。この「行きにくさ」が、「敷居が高い」のもともとの意味でした。

敷居という低い横木

敷居は、引き戸や障子の下にある、溝のついた横木のことです。高さはせいぜい数センチで、またぐのに苦労はありません。それでも「二度とこの家の敷居はまたがせない」と言えば家に入ることを許さない意味になるように、敷居は昔から「その家に入ること」の象徴でした。

その敷居が「高い」というのは、不義理や面目のないことがあって、その人の家へ行きにくいこと。借りたまま返していないもの、果たしていない約束、長い無沙汰。心当たりがあると、数センチの横木が急に高く見える。そういう後ろめたさの言葉で、「合わせる顔がない」「面目ない」と気持ちは同じ側にあります。

「高級店は敷居が高い」が広がった

いまは「あのレストランは敷居が高い」のように、高級そうで入りにくい、初心者には気後れする、という意味で使われることが多くなりました。不義理の話は、ここには入っていません。入りにくさの原因が、人への後ろめたさから、場所の格やレベルへ移っています。

この広がりは、おそらく「高い」という語の印象によるものでしょう。値段が高い、格が高い、レベルが高い。「高い」が付くものは近づきにくいという感覚があって、「敷居が高い」もその仲間として読まれるようになった。そう考えると、新しい意味は不義理の意味を知らない人が勝手に作ったというより、「高い」のふだんの使い方に引き寄せられた結果だと思います。辞書もこの変化を受けて、新しい版では高級さや格式による入りにくさの意味を併記するものが出てきました。「敷居が低い」を「気軽に入れる」の意味で使う言い方も、こちらの側から生まれたものです。

どちらの意味で読まれるか

書く側として困るのは、どちらの意味で読む人もいることです。「会員制の店は敷居が高くて入れない」と書けば、言いたいことは伝わります。けれど、もとの意味で覚えている人には「何か不義理でもあったのかな」と一瞬引っかかる。逆に「ご無沙汰してしまって、先生のお宅は敷居が高い」は、もとの意味そのままなのに、新しい意味で読む人には「先生の家が高級なのか」と見えてしまうかもしれません。

迷ったら、入りにくさの原因を見ます。人への後ろめたさなら「敷居が高い」、場所やレベルへの気後れなら「ハードルが高い」。気後れの側は言い換えがいくらでもあって、「気後れする」「腰が引ける」「尻込みする」「気軽には入れない」など、文の調子に合わせて選べます。一方、後ろめたさのほうは「敷居が高い」以外にちょうどよい言葉が少なく、「合わせる顔がない」はやや大げさで、「行きづらい」では理由が消えてしまう。この言葉をもとの意味のために残しておきたくなるのは、代わりがないからでもあります。

誤用と言い切れるか

タイトルに「誤用?」と付けましたが、新しい意味をはっきり誤用と呼べるかは、迷うところです。意味がここまで広がって、辞書にも載り始めた言葉を、間違いだと切り捨てるのは少し乱暴でしょう。ただ、書いたものがどう読まれるかを考えるなら、不義理の意味で覚えている人がまだ多くいることも事実です。恩師の家の前で足が止まる、あの気持ちのための言葉だったと知っておくと、高級店の話を書くときに別の言い方を選びやすくなります。

出す前に、さっと校正

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この記事は「間違えやすい日本語①」の一語です。