主眼と骨子の決め方|伝わるお知らせは書く前に決まる
広報を兼任している総務の担当者が、初めてプレスリリースを書くことになったとします。材料は手元にそろっています。創業の経緯、開発の背景、生産者とのやりとり、発売日、店舗数。書き始めると、たいてい古いほうから順に書いてしまいます。
私たちは創業以来、地域の食卓に寄り添うことを大切にしてきました。今回、保存料を使わないお惣菜シリーズの開発にあたっては社内で試作を重ね、生産者の方とも話し合いを続けてまいりました。こうした取り組みの一つとして、3月1日より「まいにち惣菜」シリーズを全国のスーパー約200店舗で発売いたします。
書いた人の頭の中では、これが自然な順番です。会社の歴史があって、開発の苦労があって、その結果として発売がある。ところが受け取った記者が知りたいのは、いつから、何が、どこで買えるか、それだけで、その答えは三文目の文末「発売いたします」まで出てきません。記者は創業の思いと開発の経緯を頭に置いたまま読み進め、最後にようやく用件にたどり着きます。
3月1日より、保存料を使わないお惣菜「まいにち惣菜」シリーズを、全国のスーパー約200店舗で発売します。地域の食卓に寄り添う商品をめざし、社内での試作や生産者との話し合いを重ねて開発しました。
試作も、生産者との話し合いも、約200店舗という数字も残っています。発売の事実を先頭に出し、創業の思いと開発の経緯は後ろの一文に折りたたみました。受け取る側が真っ先に知りたい一文を先に渡しておけば、背景はそのあとで落ち着いて読んでもらえます。
主眼と骨子という二つの言葉
書く前に決めておきたいことが二つあります。読み終えた人に持ち帰ってほしい一文と、そこへ読む人を連れていく順番です。前者を主眼、後者を骨子と呼びます。 骨子は骨組みのことですから、文章でいえば、主眼という中心に向かって、どの材料をどの順に並べるかの設計図にあたります。
惣菜のリリースが読みにくかった原因は、書いた人にとっての中心と、読む人にとっての中心が食い違っていたことです。担当者の頭の中では、創業以来の思いが話の起点でした。記者にとっての中心は、発売という事実です。書き手側の経緯から書き始めると、相手が一番ほしい一文が後ろへ押しやられます。
新聞の記事が、最初の段落に結論を置き、後ろへいくほど細かい情報になる形で書かれているのも、同じ理由からです。紙面の都合で記事が後ろから削られても、冒頭だけ残れば要点は伝わる。プレスリリースは記者に向けて書くものなので、この形に寄せておくと、記事にしてもらいやすくなります。
骨子は、主眼が決まってから引きます。発売の事実を先頭に置くと決めれば、次に来るのは「なぜその商品なのか」という背景で、その次が問い合わせ先。順番そのものは単純で、難しいのは、書き手が自分の順番を手放すことかもしれません。
「新サービスに関するお知らせ」は見出しになっていない
主眼と紛らわしいのが、テーマです。テーマはその文章で扱う範囲、主眼はそこから相手に持ち帰ってほしい中心です。違いは、見出しでよく分かります。
新サービスに関するお知らせ
新サービスについて何か言うらしい、とは分かります。けれど、自分に関係のある話なのか、何がいつから変わるのかは、本文を開くまで判断できません。
4月1日から、請求書をオンラインで受け取れるようになります
本文で伝える中身を、そのまま見出しに上げました。いつから何ができるようになるかがその場で分かり、自分に関わる話かどうかもその場で決められます。見出しに置くのは、扱う範囲ではなく、読んだ人が持ち帰る中心です。
社内の報告メールでも、この取り違えはよく起きます。「先週の展示会について」という件名より、「展示会で名刺を120枚いただきました。来週から順に連絡します」のほうが、開く前に用件が分かります。件名が「〜について」で終わっていたら、テーマ止まりになっていないか一度疑ってみるとよさそうです。
残す、下げる、分ける、捨てる
主眼と骨子が決まると、集めた材料のうち、何をどこに置くかが見えてきます。受賞のお知らせで考えてみます。
このたび当社の節水シャワーヘッドが、グッドデザイン賞を受賞しました。開発では水流の形を試作のたびに見直し、社内で使い心地を確かめる作業を続けてきました。
受賞という中心を読んだ直後に、社内での試作という書き手側の経緯が、同じ重さで続いています。読んでいる人は、どこまでがニュースでどこからが背景かを自分で仕分けながら、受賞の何が評価されたのかも経緯の中から推し量らなければなりません。
このたび当社の節水シャワーヘッドが、グッドデザイン賞を受賞しました。水まわりの使い心地を見直した点が評価されています。開発の経緯は、製品ページで紹介しています。
受賞という主眼は先頭に残しました。開発の経緯は、受賞理由として一文に要約して後ろへ下げ、詳しい話は製品ページへ分けました。試作や使い心地を確かめた事実は捨てていません。置き場所が変わったことで、読む側はニュースと背景を仕分けなくてすみます。材料は、主眼に近いものを残し、遠いものを下げ、長いものを別の場所へ分ける。 どうしても主眼を薄めてしまうものがあれば、思い切って捨てます。
中心は一つしか運べない
もう一つ、お知らせをぼやけさせるのが、主眼を二つ抱えることです。
本日、新しい家計簿アプリを公開しました。あわせて、開発と運営を担う仲間を若干名募集しています。
製品公開のお知らせなのか、採用のお知らせなのか。二つの中心が同じ強さで並ぶと、どちらに向けた文章かが決まらず、求められている行動がアプリを使うことなのか応募することなのかも、はっきりしません。小さな会社では、公開と採用を一度に知らせたくなる気持ちはよく分かります。それでも、アプリに興味がある人と仕事を探している人は、別の人です。
本日、新しい家計簿アプリを公開しました。採用に関するお知らせは、別途お伝えします。
主眼を製品公開の一つに絞り、採用募集は別のお知らせへ分けました。一つの文章が運べる中心は、一つです。 伝えたいことが二つあるなら、文章を二つに分けたほうが、どちらも届きます。
書く前の手順としては、本文に入る前に、メモに一行だけ書いておくのがよいと思います。「3月1日、まいにち惣菜、全国約200店舗で発売」。この一行が主眼で、見出しの候補でもあります。書き終えたら、各段落の最初の一文だけを上から拾い読みして、ニュース、背景、補足の順に流れているかを見る。途中で背景から始まっている段落があれば、そこが相手の止まる場所です。惣菜のリリースを書いた担当者も、この一行を先にメモしていれば、創業の話から書き始めることはなかったはずです。
出す前に、さっと校正
「この使い方、合っているかな」と迷ったら、書いた文章をLINTOに貼って校正してみてください。誤字や表記のゆれ、読みにくい言い回しまで、無料でまとめて見直せます。メールを送る前、記事を公開する前、SNSに投稿する前のひと確認に、どうぞお役立てください。
この連載の記事
- 前の回:段落の分け方と話のまとめ方
- 次の回:読み手を待たせない書き出し
- 文章力編の入口:わかりにくい文章の特徴と直し方
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