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読み手を待たせない書き出し|用件と対象を先に渡して伝える

朝の電車で、スマートフォンの受信箱を眺めている人がいます。画面に見えるのは、送り主の名前と件名、それに本文の最初の一行ほどです。開くかどうかは、そこで決まります。

件名:今月のおしらせ

小さなパン屋さんが、登録してくれた読者に月に一度送っているニュースレターの件名です。何か知らせたいことがあるのは分かります。けれど何の号かは開くまで分からず、急ぎの用がない人ほど、そのまま下へ流してしまいます。開いてもらえたとして、本文はこう始まっていました。

すっかり春らしくなり、店先の桜も満開を迎えました。いつもニュースレターをお読みいただきありがとうございます。ご好評をいただいていた季節限定のいちごのタルトを、今週末から数量限定で再びお出しします。

丁寧で、感じのよい三文です。ただ、この号がいちばん伝えたいはずの「いちごのタルトを再販する」は、三文目まで出てきません。開いた人は何の知らせか分からないまま、桜の話とお礼を頭に置いて読み進めます。順番を入れ替え、一文目をそのまま件名にも上げてみます。

件名:いちごのタルト、今週末から再販します

ご好評をいただいていた季節限定のいちごのタルトを、今週末から数量限定で再びお出しします。すっかり春らしくなり、店先の桜も満開を迎えました。いつもニュースレターをお読みいただき、ありがとうございます。

あいさつもお礼も残っています。動かしたのは三つの文の順番で、新しい言葉は件名にしか足していません。書き出しで最初に渡すのは、これは何の知らせか、という用件です。 件名で見当をつけ、最初の一文で中身を確かめる。この二つがそろえば読む人は迷わず本文に入れますし、桜の話は用件のあとに置いても、温かさが減るわけではありません。

「〜について」で終わる件名

件名が用件になっていないのは、ニュースレターに限った話ではありません。社内のメールで「来週の会議について」と書くと、開くまで何が言いたいのか分かりません。日程を変えたいのか、資料を頼みたいのか、欠席の連絡なのか。「来週の会議、15日に変更できますか」と書けば、相手は開く前に、自分が返事を求められていることまで分かります。

役所や学校の文書には、「〜について(お知らせ)」という件名の形が多く見られます。長年の決まった形なので、そこを変えようという話ではありません。一方、自分で件名を決められる場面なら、「について」の先にある中身を件名にしたほうが、相手の手間は確かに減ります。件名が「〜について」で終わっていたら、その先を一行で書けないか、一度考えてみる価値があります。

誰に向けた話かも、先に

書き出しで渡したいのは、用件だけではありません。「これは自分に関係する話か」という手がかりも、早いほうが親切です。全員に届くのに、関係するのは一部の人だけ、という号で差が出ます。

先月、オンラインショップをリニューアルしました。会員登録がお済みの方は、6月末までにパスワードの再設定をお願いします。

リニューアルの報告が先に来るので、会員登録をしていない人も、自分に関係があるのかを確かめようとして最後まで読みます。「会員登録がお済みの方」という宛先が後ろにあるほど、関係のない人ほど長く待たされる形です。

会員登録がお済みの方は、6月末までにパスワードの再設定をお願いします。先月、オンラインショップをリニューアルしたためです。

リニューアルの報告は、再設定をお願いする理由として後ろの一文に折り込みました。宛先が先にあれば、関係のない人はそこで読むのをやめられ、関係のある人は自分への知らせとして読み始められます。 全員に最後まで読ませることが、よい書き出しというわけではありません。必要な人が必要な知らせへ早く着けるほうが、結果として読んでもらえる確率も上がります。

値上げのお知らせほど、前置きが言い訳に見える

順番の差がいちばん出るのは、知らせる中身が相手にとって不利益なときです。

日ごろより当店のパンをご利用いただき、誠にありがとうございます。原材料の価格がこのところ上がり続けているため、4月1日から、一部の焼き菓子の価格を改定させていただきます。

一文ずつは丁寧です。けれど、お客さんにいちばん関わる「いつ、何が、どう変わるのか」が、お礼と理由の後ろにあります。書く側としては、いきなり値上げと言うのは申し訳ないから、お礼と事情を先に置きたい。その気持ちは自然なものだと思います。ただ受け取る側から見ると、用件の前に並ぶ前置きは、配慮というより言い訳に見えやすいものです。

4月1日から、一部の焼き菓子の価格を改定させていただきます。原材料の価格がこのところ上がり続けているためです。日ごろより当店のパンをご利用いただき、誠にありがとうございます。

改定の事実を一文目に出し、理由は「ためです」で前の文に続け、お礼を後ろに回しました。理由もお礼も、言葉はそのままです。同じ前置きでも、用件の前に長く並ぶと言い訳に見え、用件のあとに添えると配慮になります。 不利益な知らせほど、包まずに先に出したほうが、かえって誠実に伝わります。

用件が早く見えているなら、そのまま

すべての書き出しを用件から始めなければいけない、という話ではありません。

毎年この時期になると、初めて梅仕事に挑戦されるお客さまから、よくご質問をいただきます。今号は、梅シロップづくりのコツをまとめました。

二文目で「この号は梅シロップの話」と分かります。一文目の短い前置きは、なぜこの号を読む価値があるのかを支えていて、むだではありません。これを「今号は、梅シロップづくりのコツをまとめました」から始めても、用件はもともと早く見えていたので読みやすさは変わらず、入り口の流れが少し平らになるだけです。直す相手は、用件が後ろに埋もれて待たされる書き出しで、すでに道筋が見えている入り口まで動かす必要はありません。

送る前の確かめ方は簡単で、件名と最初の一文だけを読んで、何の知らせで誰宛てかが分かるかを見ます。分かれば、あとの桜の話もお礼も、そのまま残してかまいません。桜は、タルトのあとでもちゃんと読んでもらえます。

出す前に、さっと校正

「この使い方、合っているかな」と迷ったら、書いた文章をLINTOに貼って校正してみてください。誤字や表記のゆれ、読みにくい言い回しまで、無料でまとめて見直せます。メールを送る前、記事を公開する前、SNSに投稿する前のひと確認に、どうぞお役立てください。

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