読めそうで読めない漢字 / 第75回
「逞しい」は「たくましい」。体つき以外に褒めてもいい?
「逞しい」は「たくましい」と読みます。体が丈夫で強そうな様子だけでなく、意志が強くくじけないこと、勢いが満ちていることにも使います。「逞しい精神」「逞しい想像力」は、体つきの話をしているわけではありません。
体の強さと気持ちの強さ
「逞しい腕」といえば、がっしりして力のありそうな腕です。「荷物を軽々と運ぶ逞しい姿」という文でも、体の丈夫さや力強さが伝わります。「逞」の字は、意気や勢いが盛んなことに関わります。
「逞しい」は、丈夫さ、くじけない強さ、満ちあふれる勢いを表す言葉です。 「失敗しても方法を変えて挑戦する逞しさがある」なら、気持ちや行動の立て直し方を評価しています。大柄か小柄かとは関係ありません。
「たくましい」と平仮名で書いても自然です。「逞しく」「逞しさ」「逞しげな」のように形が変わります。「たくましい」の「ま」は漢字に含まれ、送り仮名は「しい」です。読みを知らなければ推測しにくい字ですが、身近な言葉と結びつけば文中でも読めるようになります。
「生活力が逞しい」は何を褒める?
「知らない土地でも必要な情報を集め、暮らしを整えていく逞しさがある」という文なら、新しい状況へ対応する力を表します。「困ったときに周りへ助けを求められるのも、彼女の逞しさだ」と書くこともできます。一人で何でも耐えることだけが逞しさではありません。
「小さな店が工夫を重ね、逞しく続いている」なら、状況に合わせて生き残る力を感じさせます。「踏まれても芽を出す草の逞しさ」という例では、生命力の強さを表しています。対象は人だけに限りません。
ただし、苦労している人へ「あなたは逞しいから大丈夫」と言うと、支援は要らないと決めつけるように聞こえる場合があります。能力を評価することと、負担を任せきりにすることは別です。「新しい環境にも慣れてきたようですね」のように、確認できる変化を言う方法もあります。
「想像力が逞しい」はいつも褒め言葉?
「身近な箱から大きな物語を作り出す、逞しい想像力がある」なら、発想が豊かで勢いがあるという評価です。「想像力を逞しくする」は、さまざまなことを活発に思い描く意味で使われます。
一方、「少し返事が遅れただけで、そこまで考えるとは想像力が逞しいね」と言うと、考えすぎだという皮肉にもなります。同じ表現でも、前後の言葉と話し方によって評価が変わります。
「逞しい食欲」は食べる勢いが旺盛なことですが、相手の食べ方を評価する場面では、からかいとして届く場合もあります。褒めるつもりなら「よく食べてくれてうれしい」「料理を気に入ってもらえたようでよかった」と、意図を直接伝える選択肢もあります。
「図太い」「強引」との違い
「図太い」は、物事に動じず、遠慮しない様子を表し、ずうずうしさを批判する場面にも使われます。「失敗を気にせず続ける」という同じ行動でも、「逞しい」と評価するか、「図太い」と見るかで文章の印象は変わります。
「強引」は、相手の意向などを十分に考えず、無理に進めることです。「逞しく交渉する」と書いても、実際には相手を押し切っているなら、よい意味だけで伝わるとは限りません。形容詞より先に、何をしたかを示すと判断しやすくなります。
「断られても条件を見直し、別の方法を提案した」なら、粘り強さや工夫が見えます。「相手が嫌がっても同じ要求を繰り返した」なら、受け取られ方は違います。逞しいという一語で全部を褒めるより、体、意志、生活力、発想のどの強さを述べたいのかを示すと、評価の内容が明確になります。