間違えやすい日本語 / 第87回
「単純」と「簡単」は同じ?人や仕事を評するときの注意点
「単純な作業なのに、なぜ時間がかかるのか」。この言い方には、作業をする人の苦労を見落とす余地があります。「単純」は仕組みや内容が複雑でないこと。「簡単」は、手間や時間がかからず実行しやすいことにも使います。 単純だからといって、いつでも簡単とは限りません。
同じ動作を繰り返す仕事は単純でも大変
「一枚ずつ数えて箱に入れる」という作業は、説明する手順が少なく単純です。ただ、扱う枚数が多かったり、間違いを出せなかったりすれば、長い時間と集中力が必要になります。「単純な作業だが、正確に続けるのは難しい」は矛盾しません。
「仕組みは単純でも、調整には経験が要る」という文も自然です。機械を構成する部品が少ないことと、誰でも調整できることは別の話だからです。
依頼するときに「簡単なことだから、すぐできますよね」と付けると、難しさをこちらだけで決めてしまいます。「同じ形式の書類が三十枚あります。確認にどれくらい時間がかかりそうですか」と聞けば、作業の量を示したうえで見積もりを頼めます。
「簡単な説明」は分かりやすいとは限らない
「初めに簡単な説明をします」と言う場合の「簡単」は、長く複雑に説明せず、要点に絞るという意味です。理解しやすい説明を目指していても、説明が短ければ必ず分かりやすくなるわけではありません。
「操作の流れだけ、三分ほどで説明します」なら、どの範囲を話すのかと所要時間が分かります。一方、「専門知識がない方にも分かるように説明します」は、短さより理解しやすさを約束する文です。目的によって言い分けられます。
「簡単な作りの棚」と「単純な構造の棚」のように、構造が込み入っていないという意味では二つの語が重なります。重なるところまで無理に分ける必要はありません。時間や手間について述べるのか、仕組みについて述べるのかを見ればよいのです。
人を「単純」と呼ぶと褒め言葉にならないことがある
「彼は単純な人だ」は、素直で分かりやすいという意味にも、考えが浅いという意味にも取れます。親しい人同士の冗談なら通じる場合がありますが、人物紹介や評価の文章では曖昧さが残ります。
相手の率直さを褒めるなら「思っていることを率直に話す人です」、喜び方を表すなら「小さなことでも素直に喜んでくれます」と言えます。「単純でいい人」とまとめるより、どんなよさがあるのかが伝わります。
反対に、意見が一面的だと指摘したいなら、「その見方では、別の条件が抜けています」と説明できます。人全体を「単純」と評するより、話し合っている考えのどこを直したいかが明確です。
「簡単な人」という言い方も、一般に素直さを褒める表現にはなりません。人を物事の難易度と同じように分類するより、性格や行動を具体的に述べた方が適切です。
「単純に」は考慮する範囲を狭めることもある
「単純に数だけ比べると、今年の方が多い」。これは、質や条件の違いをいったん外し、数に限って比べるという文です。数が多いから今年の方が優れているとまで言っているわけではありません。
「単純に好きだから続けている」なら、込み入った理由はなく、好きという気持ちが理由だと伝えています。この「単純に」をすべて考えの浅さとして読む必要はありません。
注意したいのは、「単純に考えればよい」と言って、大事な条件まで除いてしまう場合です。条件を省くなら「費用だけで比べると」「今回は人数の差を考えずに」のように範囲を示せます。簡潔な説明をしながら、現実の問題まで簡単だと決めつけずに済みます。