正しい敬語 / 第53回
「殿」は「様」より偉い?メールの宛名で選びたい敬称
「部長だから『殿』の方が丁寧なのだろうか」。宛名でそう迷ったら、個人宛ての通常のメールは「様」を選ぶとよいでしょう。
「殿」は古めかしく重々しく見えますが、現代では「様」より敬意が高い、と考える言葉ではありません。
「殿」は公的な書面などに残る敬称
小学館辞書編集室の解説によると、「殿」はもともと邸宅への尊称から、そこに住む人への敬称へと広がった言葉です。その敬意や使われ方は、時代とともに変わってきました。
現在は、公的な書類や賞状などで「殿」を見る一方、個人への手紙やメールでは「様」が広く使われます。「殿」は目下に用いる印象を持たれることもあり、特に親しくない相手への私信では選びにくい場合があります。
ただし、書式として「殿」が指定された申請書などを見て、相手を低く扱っていると即断する必要はありません。書類の慣行として残っている場合があるからです。
役職を付けるなら「部長 佐藤様」と整理する
会社の担当者に送るなら、所属、役職、名前を順に書けます。
「株式会社○○ 営業部 部長 佐藤様」
この形なら、役職は部長、敬称は名前に付ける「様」と分かれます。「佐藤部長様」と敬称を重ねる形を避けたいときにも使えます。社内で普段「佐藤部長」と呼んでいるなら、その呼び方が自然な連絡もあるでしょう。
相手が偉いほど古風な敬称を選ぶ、という考え方はしなくて大丈夫です。宛先が個人なら「様」、組織なら「御中」、指定書式があるならその形式。まずは、どこへどんな文書を送るのかを確かめる方が役立ちます。
返信で相手と同じ敬称にそろえる必要は?
株式会社青葉 総務部 山田花子様
「山田殿」と記された書面への返事でも、個人に宛てる通常の手紙なら、このように「様」を使えます。相手が使った敬称をそっくり返さなければ失礼になる、ということではありません。
届いた文書の「殿」が指定書式によるものなら、その一語だけで相手の態度を判断しないほうがよいでしょう。逆に、自分が自由に宛名を選べる連絡では、「様」とすれば幅広い場面になじみます。
相手の名前が分からないときは、「総務部 ご担当者様」と書く方法があります。「担当者殿」「担当者様」のどちらが偉いかと比べるより、どの人に届けたいかが分かる宛名にすることが先です。
役職だけに宛てる書面と、名前を呼ぶ文を分ける
営業部長 山田花子様
役職と姓名を分けると、「営業部長」という職務を示しながら、個人への敬称を添えられます。名前の後に「部長殿様」と複数の敬称を付ける必要はありません。
申請書などで「○○市長 殿」と印刷されている場合は、その書面で定められた宛先を使います。個人宛てメールの書き方を根拠に、指定された印刷部分を勝手に直す必要はありません。
本文で複数の人物を紹介する場合には、全員の敬称を同じ基準でそろえると読みやすくなります。取引先の個人名に「様」を付けるなら、途中の人だけ肩書もなく呼び捨てになっていないかを確認します。見慣れた敬称でも、抜けがないことが大切です。
手紙では「様」と書く相手にも、会ったときは「山田先生」「山田部長」と、関係に合う呼び方を使えます。書面の宛名と、会話の呼びかけが常に同じになるわけではありません。古風な言葉ほど敬意が強いという順番を作るより、文書の性質とその場の呼び方に合わせて選ぶと、迷いが少なくなります。