「爆笑」は一人でも使える?|「大勢で笑うこと」説と辞書の変化
社内報のコラムに「深夜に一人で動画を見て爆笑した」と書いた人が、校閲から「爆笑は大勢で笑うことなので、一人には使えません」と赤を入れられた。十年ほど前なら、それで話は終わっていました。いまは少し事情が違います。赤を入れた側が、辞書を引き直してみたくなる言葉になっています。
「大勢がどっと笑う」説の出どころ
多くの辞書は長らく、爆笑を「大勢がどっと笑うこと」と説明してきました。この説明に従えば、部屋で一人、動画を見て大笑いしても爆笑とは呼べないわけで、「一人で爆笑は誤用」という指摘を、クイズ番組や言葉のコラムで見かけた人もいるはずです。この連載でも、ここまでは意味がずれて広まった言葉を扱ってきましたから、爆笑もその並びだと思われるかもしれません。
ところが、この言葉は向きが逆です。
古い用例に、一人で笑う人がいた
言葉の研究者からは、昭和の初めごろの用例に、一人で爆笑している例が見つかるという指摘があります。「大勢で」という条件は、言葉が生まれたときからあったのではなく、あとから辞書の説明に書き込まれて広まった可能性があるのです。
「爆」の字の仲間を見ても、爆発、爆音、爆走と、どれも勢いや突発性を表していて、人数のことは言っていません。それでも「大勢で」が書き込まれたのは、爆笑の説明によく使われる「どっと笑う」の「どっと」が、もともと大勢が一斉に動くさまを表す言葉だからではないでしょうか。説明に使った副詞の性質が、いつのまにか語そのものの条件になった、という筋書きです。これは推測で、確かめたわけではありません。
この指摘を受けて、辞書も動きました。三省堂国語辞典は第七版で、爆笑の説明から「大勢で」という条件を外し、一人の大笑いにも使えるようにしています。ほかにも新しい版で同じ方向に改めた辞書が出てきていて、「爆」の字が表しているのは人数ではなく、はじけるような笑いの勢いだと考えれば、こちらのほうが筋の通った整理です。
誤用だと言われてきた使い方が、調べてみたら最初からあった使い方だった。辞書は正しさを決める側だと思われがちですが、言葉を観察して記録する側でもあって、観察が進めば説明は書き換わります。爆笑は、その様子が見えやすい例の一つだと思います。
いま使うときの目安
では安心して使えるかというと、少しだけ気を遣う場面が残ります。「一人で爆笑は誤用」と覚えている人が、まだたくさんいるからです。こちらは新しい辞書にそって書いたつもりでも、相手の頭の中では古い説明が生きていて、そこで引っかかりとして残るかもしれません。冒頭の校閲の赤も、覚えたことに忠実だった結果で、責められるものではないでしょう。
報告書や社外向けの文章など、引っかかりを残したくない場所では、「思わず吹き出した」「笑い転げた」「腹を抱えて笑った」あたりに置き換えておくのが無難です。逆に、その場の全員がどっと笑ったことを言いたいなら「会場が爆笑に包まれた」と書けば、どちらの説明で覚えている人にもそのまま届きます。友人へのメッセージやSNSで、一人で爆笑したと書くのは、もうためらわなくてよいでしょう。辞書がそちらに追いついています。
出す前に、さっと校正
「この使い方、合っているかな」と迷ったら、書いた文章をLINTOに貼って校正してみてください。誤字や表記のゆれ、読みにくい言い回しまで、無料でまとめて見直せます。メールを送る前、記事を公開する前、SNSに投稿する前のひと確認に、どうぞお役立てください。
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この記事は「間違えやすい日本語④」の一語です。