読めそうで読めない漢字 / 第77回
「甚だしい」は「はなはだしい」。悪いことにしか使えない?
「甚だしい」は「はなはだしい」と読みます。程度が普通を大きく超えていることです。「混雑が甚だしい」なら、混み方がかなり激しい状態を表します。悪いことを述べる場面でよく使いますが、言葉の核は「程度が大きい」という点にあります。
「甚」の字は程度の強さを表す
「甚」は、はなはだしい、非常にという意味に関係する字です。「甚大な被害」の「甚大」は「じんだい」、「甚だ」は「はなはだ」と読みます。同じ字でも熟語と訓読みで音が変わります。
「甚だしい」は、普通の度合いを大きく超えることを表す強い言葉です。 「二人の認識には甚だしい隔たりがある」と書けば、少し意見が違うという程度ではなく、隔たりが相当に大きいと伝わります。
「甚だしい」「甚だしく」「甚だしさ」という形で使います。「暑さが甚だしい」は暑さの程度を述べ、「甚だしく傷んでいる」は傷み方を強めています。「はなはだ」を途中で切らず、まとまった読みとして覚えると、音読でも迷いにくくなります。
悪いことに使う例が多い理由
「甚だしい誤解」「甚だしい損傷」「非常識も甚だしい」など、好ましくないことが度を超えている場合に使いやすい語です。とくに「何々も甚だしい」という形は、強い非難を感じさせます。
ただ、意味を「悪いことが起こる」に限定するのは狭すぎます。「変化が甚だしい」「差が甚だしい」のように、変化や差の大きさを述べる使い方もあります。変化が良い方向なのか悪い方向なのかは、その内容によって決まります。
それでも、相手を褒めるために「上達が甚だしいですね」と言うと、現代の日常会話では少し不自然です。「上達が著しいですね」「見違えるほど上達しましたね」なら、よい変化を評価する意図が伝わります。語義として可能な範囲と、その場面でなじむ表現は分けて考えられます。
「甚だ」は謝罪や感謝にも使える
「甚だ」は、非常に、とてもという意味で、後に続く言葉を強めます。「甚だ恐縮ですが」「甚だ勝手なお願いですが」のように、改まった前置きで使われます。この場合、甚だしいという形容詞をそのまま付けた文とは調子が違います。
「甚だ残念です」なら、残念さの強さを表しています。「甚だありがたい」といった肯定的な内容にも使えるため、「甚」の字があるから必ず悪い意味だとはいえません。
ただし「甚だしくありがとうございます」とは通常言いません。「甚だ」と「甚だしく」は、どんな語に付けても同じように使えるわけではないからです。礼状なら「大変ありがたく存じます」「心より感謝いたします」と、自然な形を選べます。難しい字を増やせば、より丁寧になるわけではありません。
強い批判を伝えるときの例
「その説明は誤解も甚だしい」と返すと、相手の理解をかなり強く否定しています。「開催が中止になったのではなく、開始時刻が変わりました」と具体的に訂正する文とは、相手への印象が違います。
「資料の劣化が甚だしく、通常の閲覧は難しい」という文なら、状態の悪さが具体的な判断につながっています。「表紙が外れ、ページの端も崩れやすいため」と続ければ、どんな状態を甚だしいと呼んでいるのか分かります。
「両案の差は甚だしい」とだけ書くより、「必要な日数が大きく違う」と示すこともできます。甚だしいは強度を表しますが、差の中身や方向までは説明しません。
相手に改めてほしいときは、「迷惑も甚だしい」と感情を強く伝える方法だけでなく、「夜の音が続き、眠れない状態です。時間を早められないでしょうか」と具体化できます。言葉の強さを知ったうえで、その強さが今回の目的に合うかを選ぶと、読み違いも言い過ぎも減らせます。