「破天荒」の意味と使い方|「豪快・型破り」ではない、その由来
先に結論を書いておくと、「破天荒」はもともと、人の性格を表す言葉ではありません。これまでだれも成し得なかったことを、初めて成し遂げること。酒の飲み方や振る舞いの派手さではなく、達成そのものの大きさにかかる言葉です。
「天荒」を破った男
由来は中国、唐の時代にさかのぼります。荊州という土地では、長いあいだ科挙の合格者が一人も出ませんでした。そのため人々はこの地を、天地がまだ開けていない荒れ地という意味で「天荒」と呼んでいたそうです。そこへ劉蛻という人物が現れ、初めて合格を果たします。これを「天荒を破った」とたたえた、という話が『北夢瑣言』に残っています。
「破」は破る、「天荒」は未開の地。ですから破天荒の三文字は「乱暴に荒らす」ではなく、「だれも越えられなかった壁を初めて越える」という組み立てになっています。意味の近い言葉を探すなら「前人未到」「空前」「未曾有」で、「豪快」「奔放」はこの輪の外です。とはいえ、この三つにも細かな違いはあって、「未曾有」は「未曾有の大震災」のように災いの大きさを言うときにもよく使われますし、「空前」は「空前の大ヒット」のように規模の話に寄ります。だれかが初めて達成した、という手柄の意味に一番近いのは「前人未到」で、「破天荒」の言い換えとしては、これがいちばん無理がありません。
豪快な人、という意味に
いまテレビや雑誌で「破天荒な芸人」「破天荒な人生」と言えば、たいていは型にはまらず、むちゃもする、豪快な人物のことです。たとえば「彼は酒もけんかも派手な、破天荒な男だった」。会話では通じますし、聞いた人が困ることもまずありません。ただ、もとの意味に照らすと、ここで言いたいのは人柄のことで、達成のことではありません。「豪放な男」「型破りな男」のほうが、言いたいことに合っています。
逆に「無名校から初めて全国優勝を果たした、破天荒な快挙」なら、だれも届かなかったところへ初めて届いたという話ですから、由来にかなった使い方です。
どうして性格の意味へずれたのか。おそらく、「破」と「荒」という字面が強すぎるのだと思います。荒れたものを破る、と読めば、暴れている人の姿が浮かびます。それに、前人未到のことをやる人は、常識にも収まらないことが多いですから、「初めての偉業」と「型破りな人柄」が、同じ人物の中で重なってしまったのでしょう。偉業が忘れられ、人柄だけが残った。そういう経緯だったのではないかと想像します。
言い換えの分かれ目
見分けの手がかりは、「破天荒な」のあとに来る言葉です。「人物」「芸人」「上司」のように人が来れば、たぶん性格の話をしていて、「快挙」「記録」「決断」のように事が来れば、達成の話をしています。自分の書いた文を見直すとき、この一点を見るだけでも、どちらの意味で使っているかが分かります。
書き言葉で確実に伝えたいなら、偉業を言うときは「前人未到」「空前」、人柄を言うときは「豪快」「型破り」「奔放」と、どちらの話をしているかで言葉を分けておくのがよさそうです。「破天荒」は意味が分かれて受け取られる言葉になっていますから、相手がどちらで読むか分からない場面では、避けておくほうが無難かもしれません。
それでも、たとえば社史の一行に「創業者は、業界で初めて海外に工場を建てた。破天荒の決断だった」と書いたとき、この言葉の重さはよく出ます。だれもやっていないことをやった、その一回のために取っておく言葉だと考えると、ほかの言葉では代わりが利きません。
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この記事は「間違えやすい日本語②」の一語です。