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「煮詰まる」の意味と使い方|「行き詰まる」と正反対って知っていますか

鍋を火にかけて、ふたを取ったまましばらく置いておくと、汁が減って、味が濃くなっていきます。料理の本に「煮汁が煮詰まったら火を止める」とあれば、それは仕上がりの合図で、失敗の話ではありません。「煮詰まる」という言葉は、もともとこの台所の動きから来ています。

話し合いが「煮詰まる」とき

煮物の汁がだんだん減って、味が決まってくる。その様子を話し合いに重ねて、意見が出尽くして、結論を出せるところまで来ることを「議論が煮詰まる」と言うようになりました。ですから本来は、前に進んでいる状態を指す言葉です。

たとえば、何度も持ち越しになっていた新商品の名前が、三回目の会議でようやく二案まで絞れたとします。議事録に「名称案は煮詰まってきたため、次回で最終決定とする」と書けば、これはそのまま、まとまりかけているという報告になります。「機が熟す」「大詰めを迎える」と並べて使える、仕上がり側の言葉です。

他動詞の「煮詰める」のほうは、いまでもあまり揺れていません。「企画をもう少し煮詰めてから持ってきて」と言われて、行き詰まらせてこいと受け取る人はいないでしょう。細かいところまで詰めて、形にする。自動詞の「煮詰まる」も、もとはその結果の状態を指していました。

「行き詰まる」と混ざる

ところが、「一人で考えていたら煮詰まってしまって、何も浮かばない」という言い方も、職場でよく耳にします。ここで言いたいのは、まとまったことではなく、進めなくなったこと。意味が逆を向いています。

なぜこうなったのかは推測になりますが、音も形も近い「行き詰まる」と混ざったのが一番大きいのだと思います。「詰まる」という字には、ふさがって動かなくなる顔と、仕上げに向けて中身を凝縮していく顔の二つがあって、「息が詰まる」「手詰まり」は前者、「議論を詰める」「詰めが甘い」は後者です。「煮詰まる」はもともと後者の側なのに、字面だけ見れば前者の仲間と区別がつきません。それに、煮詰まった鍋をそのまま火にかけていれば焦げつきますから、「もう動かない」「煮えすぎて駄目になった」という連想も、たぶん後押ししています。辞書によっては、この行き詰まるほうの意味を新しい用法として載せ始めたものもありますが、あとから広がった使い方だという扱いは変わっていません。

やっかいなのは、受け取る側が割れることです。同じ会議室で「だいぶ煮詰まってきましたね」と部長が言ったとき、ある人は「そろそろ決まるな」と胸をなで下ろし、別の人は「まずい、手詰まりと思われている」と焦る。どちらも悪くないのに、話がかみ合いません。

向きが分かる言い方にする

書き言葉で残すときは、前向きなら「結論が見えてきた」「案が絞れてきた」、後ろ向きなら「行き詰まった」「手詰まりになった」と、どちらの話か迷わない言い方がよさそうです。「煮詰まる」を使うなら、「煮詰まってきたので、来週には決められそうです」のように、進んでいると分かる一言を続けておく。それで焦る人はいなくなります。

後ろ向きの気持ちを「煮詰まった」で言いたくなる場面も、たしかにあります。一人で机に向かって、同じところを何度も回っているような時です。その感じなら「八方ふさがり」「堂々巡り」「頭が回らない」あたりが、気持ちごと伝わりそうです。

鍋の前で、火を止めるかどうか見ている頃合い。言葉のもとにあるのは、焦げる手前ではなく、そこです。

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