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LINTO日本語の校正と推敲

読めそうで読めない漢字 / 第81回

「訝しい」は「いぶかしい」。怪しいと思う気持ちをどう表す?

「訝しい」は「いぶかしい」と読みます。事情がよく分からず、何かおかしいと感じる様子を表す言葉です。「訝しげな顔」とあれば、相手の説明や目の前の出来事に納得できず、疑問を抱いている顔が浮かびます。

「怪しい」と近い意味ですが、不正があると決めつける言葉ではありません。「訝しい」が表すのは、腑に落ちず疑っている気持ちです。何を不審に感じたのかを添えると、人物の心理が伝わります。

「訝しい」の読み方と「訝しむ」の形

「訝」の字には、いぶかる、疑うといった意味があります。「訝しい」は形容詞で、「訝しく思う」「訝しそうに見る」のように使います。「いぶかしがる」は、その疑いが態度に表れることを言いやすい形です。

動詞の「訝しむ」は「いぶかしむ」と読みます。「急な変更を訝しむ」なら、どうして変更したのだろうと不審に思うことです。「訝しむ」と「訝しく思う」は、多くの場面で近い内容になります。

「招待していない人から出席の返事が届き、訝しく思った」。ここでは、相手の人柄を疑っているとは限りません。招待の経緯が分からないという、状況への疑問です。字面に強い印象があっても、疑う対象は人だけではありません。

「怪しい」「疑わしい」とどう違う?

「怪しい」は用途の広い言葉です。不審な人物にも、実現しそうにない予定にも、ぼんやりした記憶にも使えます。「明日の開催は怪しい」は成立の見込みを述べており、普通は「開催は訝しい」とそのまま置き換えません。

「疑わしい」は、真偽や確かさを疑う場合に使いやすい表現です。「記録の正確さが疑わしい」なら、記録を信用できるかが話題になっています。一方、「記録が急に消えたことを訝しく思う」では、その出来事に不審を抱いた気持ちが前に出ます。

ただし、三つの言葉の意味は重なります。「訝しい説明」と「疑わしい説明」を別物に分類する必要はありません。疑いの感情を描くのか、内容の確かさを問題にするのかによって、選びやすい語が変わります。

表情と組み合わせると心理が見える

「名前を呼ぶと、彼女は訝しげに振り返った」。この一文からは、呼んだ相手を知らない、呼ばれる理由が分からない、といった戸惑いを想像できます。実際の理由は、続く会話で明らかにすると自然です。

「全員が急に黙ったので、彼は訝しそうに周囲を見回した」。驚きだけでなく、何が起きたのか探ろうとする感じが出ます。「驚いた顔」「困った顔」に替えると、同じ動作でも受け取る心理が変わります。

「店員が何度も時計を見るのを、客は訝しく思った」という例もあります。閉店時間が迫っていたのか、別の用事があったのかは、この文だけでは分かりません。訝しんだ人の視点と、出来事の真相を分けて書くことができます。

疑いを事実のように書かない

説明文で「訝しい取引だった」とだけ書くと、どこに問題があるのか曖昧なまま、不正を印象づける場合があります。確認できた点を伝えたいなら、「請求書と契約書で金額が異なっていた」と、食い違いそのものを書く方が明確です。

人の反応を記録するなら、「金額の違いを訝しく思い、担当者に確認した」とできます。これは疑問を持った経緯と行動を説明しており、相手が不正をしたと断定してはいません。

なお、古い文章の「いぶかしい」には、知りたい、気に掛かるという意味もあります。現代の文章での基本は、不審に感じることです。小説の心理描写では表情や動作を添え、事実を伝える文では疑問の根拠を添える。その使い分けで、疑いの強さを必要以上に膨らませずに書けます。

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