間違えやすい日本語 / 第93回
「遺憾です」は謝っている?残念・謝罪・非難の違いを読み解く
声明で「誠に遺憾です」と聞くと、謝っているのか、怒っているのか迷うことがあります。「遺憾」は、期待したようにならず残念に思うこと。言葉そのものに、責任を認めて謝る意味が必ず含まれるわけではありません。 何を残念だとしているのかを読む必要があります。
「遺憾」は心残りや残念な気持ちを表す
「予定どおり開催できず、遺憾に思います」。この一文は、開催できなかったことを残念に思っていると伝えています。開催できなかった原因が誰にあるのか、自分に責任があると認めているのかまでは、これだけでは分かりません。
「十分に説明する機会を持てなかったことは遺憾です」も同じです。説明したかったができなかったという心残りは伝わりますが、説明不足について相手にわびているかは、後に続く文を見なければ判断できません。
日常の短い連絡なら、「参加できず残念です」「直接お話しできず、心残りです」の方がなじむ場合もあります。「遺憾」は改まった表現ですが、使うことで残念さが必ず深くなるわけではありません。
謝罪するなら何をわびるかを明確にする
自分の手違いで連絡が遅れた場面で、「このような結果になり遺憾です」とだけ伝えると、相手には距離を置いた感想のように聞こえることがあります。相手が知りたいのは、残念に思うかだけではなく、不手際を認めてどう対応するかだからです。
「連絡が遅れ、ご予定の調整にお手数をおかけしました。申し訳ありません」と書けば、何への謝罪かが分かります。必要なら「変更内容を本日中にお送りします」と次の対応も続けられます。
「遺憾の意を表し、おわび申し上げます」という文は、残念に思うことと謝罪を組み合わせています。この場合は謝罪の言葉も実際にあるため、「遺憾という語が入っているから謝罪ではない」と一律に読むのも適切ではありません。
相手の行為を残念だと評すると非難になる
「合意した内容が一方的に変更されたことは遺憾です」。こちらが残念に思っている対象は、相手による変更です。文脈上は、単なる悲しみより、その行為を受け入れ難いとする抗議に近い表現になります。
「極めて遺憾」「誠に遺憾」と強めることもありますが、その語だけで抗議の強さを一定の段階に決められるわけではありません。誰が誰に、何について述べ、何を求めているかを合わせて読む必要があります。
自分が相手に改善を求めるなら、「事前の相談なく日時が変わり、準備に支障が出ています。今後の変更は告知前にご相談ください」のように具体化できます。堅い評価語を使わなくても、不都合と希望は伝えられます。
「遺憾なく発揮する」は残念という意味ではない?
「練習の成果を遺憾なく発揮した」は、成果を十分に示したという肯定的な文です。「遺憾」がない、つまり心残りのないように力を出し切ったという形になっています。
「能力を遺憾なく発揮できる場を設ける」「持ち味を遺憾なく示した」とも使います。「遺憾」という字が含まれているだけで、悪い結果の話だと読むことはできません。
ただし、「反省を遺憾なく発揮する」のように、どの名詞にもそのまま付けられるわけではありません。反省なら「反省を次の対応に生かす」、説明なら「必要な内容を十分に説明する」と、動作に合う語を選びます。
「遺憾です」を読むときは、謝罪の有無を単語一つで決めず、残念だとしている対象と、責任や対応を述べた文を確かめます。自分が書くときも、謝りたいなら謝罪を、抗議したいなら問題を明示すると、受け手に解釈を任せすぎずに済みます。