入れ子構造の文をほどく|条件が重なった案内を読みやすくする方法
長い文が読みにくいとは限りません。読みにくいのは、文の途中に別の文が入り込んで、外側の文の続きが後ろへ押しやられた文です。この形を入れ子と呼びます。保険や通信の約款、解約や補償の案内に、よく顔を出します。
ご契約者が解約をお申し出になった場合に、当社が解約金の有無を確認できたときは、お手続きはその月の末日で完了いたします。
一読すれば意味は取れます。ただ、「お申し出になった場合に」という条件が閉じないうちに「当社が確認できたときは」という次の条件が始まり、二つを結ぶ「完了いたします」は文のいちばん後ろに来ます。読んでいる人は、何がいつ確定するのかを文末まで保留したまま進み、着いたところで前の条件を思い返します。入れ子とは、まだ終わっていない文を抱えたまま、別の文を読まされる状態のことです。 前回の係り受けのねじれと同じで、読み手を文末から前へ戻らせる型ですが、戻る距離がひと回り長くなります。
主語が替わるところで切る
解約の文には、もう一つ見落としやすい点があります。申し出るのはご契約者で、確認するのは当社。外側の文と内側の文で主語が違うのです。条件を抱えたまま、動作の主まで途中で持ち替えるので、負担は二重になります。直すなら、主語が替わる地点で文を分けるのがいちばん確実だと思います。
ご契約者から解約のお申し出をいただいた場合、当社で解約金の有無を確認いたします。確認ができしだい、お手続きはお申し出月の末日で完了いたします。
申し出、確認、完了。起こる順に並び、それぞれの主語がすぐ隣にいます。解約金を確認するという限定も、月末に完了するという中身も残っています。ついでに、元の文では少しぼやけていた「その月」を「お申し出月」に言い換えました。入れ子をほどいていると、こうして曖昧だった語が一つ二つ見つかることがよくあります。条件に埋もれていて、書いた人自身も気づいていなかったのでしょう。
「こと」が、文の出口を隠す
条件を重ねなくても入れ子はできます。動作を「こと」で名詞にすると、外側の文の出口である中心の述語が、後ろへ隠れるからです。補償の開始日を伝える文です。
お申し込みの際にご記入いただいた情報と、ご提出いただいた本人確認書類の内容が一致していることを当社が確認できたことをもって、補償の開始日とさせていただきます。
中心は「補償の開始日とさせていただきます」です。その前に「一致していること」「確認できたこと」と「こと」が二段重なり、いつ補償が始まるのかは文末まで分かりません。読み終えてから、「確認できた」のはいつの話だったかと前へ探しに戻る人が多そうです。
お申し込みの際にご記入いただいた情報と、ご提出いただいた本人確認書類の内容が一致しているかを、当社が確認いたします。確認ができた日を、補償の開始日とさせていただきます。
「一致していること」を「一致しているかを確認いたします」と動作のある文に戻し、結論は次の文に送りました。一致の確認が条件である点も、開始日が確認のあとに決まる点も変わっていません。名詞にしていた動作を動作に戻すと、出口が早く見えます。 「こと」が二つ続いたら、ほどく合図と考えてよさそうです。
浅い入れ子は、境目を見せるだけで足りる
すべてをほどく必要はありません。条件が一段で短いなら、境目をはっきりさせる小さな手当てで読めるようになります。
保険料のお支払いが確認できない場合に補償が一時的に止まることがあります。
「場合に」とつなぐと、条件がどこで終わるのか一瞬ぼやけます。「場合は」と受けて読点を打つと、こうなります。
保険料のお支払いが確認できない場合は、補償が一時的に止まることがあります。
助詞一字と読点一つ。止まる条件もその範囲も同じですが、どこまでが条件かが目で分かります。
ここで少し脇道にそれます。法令や行政の文書では、条件が二段になるとき「場合」と「とき」を使い分ける慣例があります。大きい条件を「場合」で受け、その中のさらに細かい条件を「とき」で受けて、「〜の場合において、〜のときは」と書く約束です。読む側はこの約束を知らなくても、語が替わることで段が替わったのを感じ取れます。たとえばスポーツクラブの振替の案内なら、こう書けます。
ご欠席の連絡を前日までにいただいた場合で、振替をご希望のときは、翌月末まで別のクラスにご参加いただけます。
条件は二段のままですが、「場合」と「とき」で段が見えるので、文を分けなくても読めます。二段までの入れ子なら、境目を立てる言葉を替えるだけで、ほどかずに済むことがあります。 三段になったら、分けるほうが早いです。
三つ以上の条件は、外に出して並べる
条件が三つ以上になると、当てはまるかどうかを一つひとつ照らし合わせたくなります。流れで読む文より、一覧で見たい場面です。
この割引は、二年契約にお申し込みで、お支払いを口座振替に設定され、ご請求をウェブ明細に変更されたお客さまが対象です。
この割引の対象は、次のすべてに当てはまるお客さまです。
- 二年契約にお申し込みいただいている
- お支払い方法を口座振替に設定している
- ご請求方法をウェブ明細に変更している
条件が三つを超えたら、文の中で重ねるより、箇条書きに出して並べるほうが照らしやすくなります。 全部を満たす必要があることは「次のすべてに当てはまる」で伝わります。法令の条文が「次の各号のいずれかに該当する場合」と書いて条件を号に分けるのも、同じ考え方でしょう。
ほどかなくてよい文
長い文がそのまま入れ子というわけではありません。
今回の改定では、月額料金を見直し、無料通話の対象を広げ、契約期間の縛りをなくしました。
長めですが、三つの動作が同じ向きに並んでいるだけで、文の中に別の文は入っていません。分けても読みやすさは変わらず、見た目をそろえた以上の効果はないはずです。箇条書きにするのは、強調したいときや一覧で見せたいときの、別の目的の作業になります。
短い入れ子もそのままでかまいません。「お手続きが完了したことを、メールでご案内します」の「完了したこと」は一段で短く、中心の「ご案内します」もすぐ隣にあります。待たされる感じはしません。ほどくのは、二段三段に深くなった入れ子と、読み違えると相手の行動が変わってしまう条件です。 解約金、補償の開始日、契約の失効。こういう条件は、未完了の文を抱えさせない形にしておく値打ちがあります。
明日、条件の多い案内を書くときに確かめることは三つです。外側の文がどこで閉じているか。文の途中で主語が替わっていないか。「こと」や「場合」が二つ以上重なっていないか。どれか一つに当たったら、主語が替わる地点か、「こと」が重なる地点で文を分けてみる。約款の一文が、案内の二文になります。
出す前に、さっと校正
「この使い方、合っているかな」と迷ったら、書いた文章をLINTOに貼って校正してみてください。誤字や表記のゆれ、読みにくい言い回しまで、無料でまとめて見直せます。メールを送る前、記事を公開する前、SNSに投稿する前のひと確認に、どうぞお役立てください。
この連載の記事
- 前の回:係り受けのねじれ・修飾語の置き方
- 次の回:読点の打ち方で意味を切る
- 文章力編の入口:わかりにくい文章の特徴と直し方
- LINTOコラムの一覧はこちら。