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LINTO日本語の校正と推敲

間違えやすい日本語 / 第153回

「忸怩たる思い」は悔しいという意味?読み方「じくじ」と本来の意味、使える場面

記者会見で「結果が出せず、忸怩たる思いです」と聞くと、悔しさをこらえている様子を思い浮かべるかもしれません。「忸怩」は「じくじ」と読みます。「忸怩たる思い」は、自分の行いを深く恥じる気持ちを表す言葉です。 思いどおりにならない悔しさやもどかしさは、もとの意味には含まれていません。

「忸」も「怩」も、はじる気持ち

音は「忸」がジク、「怩」がジで、続けて「じくじ」と読みます。二つの字はどちらも心を表すりっしんべんで、恥じ入る気持ちに関わる字です。コトバンクの「忸怩」では、デジタル大辞泉が「深く恥じ入ること」、精選版 日本国語大辞典が「自分の行ないなどについて、自分で恥ずかしく思うさま」と説明しています。

由来は中国の古典『孟子』にあります。兄の舜を亡き者にしようとした弟の象が、舜の宮殿に入ると、当の舜は無事にそこにいました。象は取り繕いの言葉を口にしながら、恥じ入った様子を見せます。この場面の「忸怩」が、自分のしたことへの恥ずかしさを表しています。

日本語では「忸怩たる思い」「忸怩たるものがある」の形でよく使い、心の中で恥じている様子を強めて「内心忸怩たるものがある」とも言います。会話より、挨拶文や記事、改まったスピーチで目にすることの多い言葉です。

「もどかしい」の意味で受け取る人が多い

文化庁の令和4年度「国語に関する世論調査」では、本来の意味とされてきた「恥じ入るような思い」より、「残念で、もどかしい思い」を選んだ人のほうが多いという結果が出ています。30代以上でこの傾向が見られ、とくに50代では差が大きくなっています。デジタル大辞泉も、この調査結果を補説で紹介しています。

政治家や経営者が、思うようにいかなかった結果を語るときによく使う言葉です。その場面の印象から、悔しさを表す語として覚えられてきたのかもしれません。ただ、本来の意味で読む人には「何を恥じているのだろう」と映ります。

自分の行いを省みる文なら使える

「確認を怠り、多くの方にご迷惑をおかけしたことに、忸怩たる思いでおります」。自分たちの落ち度を恥じる文なので、本来の意味に沿っています。謝罪に限らず、「若い頃に書いた文章を読み返すと、内心忸怩たるものがある」のように、過去の自分を振り返る場面にもなじみます。

一方、「取引先の不手際で納期が遅れ、忸怩たる思いです」はかみ合いません。原因が相手にあるのに、自分が恥じ入っていることになるからです。悔しさを伝えたいなら「残念でなりません」「悔しい思いです」、もどかしさなら「歯がゆい思いです」と書けば、意図どおりに伝わります。

似た場面で使われる「遺憾」は、期待どおりにならず残念に思う気持ちで、恥じる意味は含みません。自分の責任を認めて恥じるなら「忸怩たる思い」、残念さを述べるなら「遺憾」と、気持ちの向きで選べます。発表文の「遺憾に思います」が謝罪として受け取られにくいのも、この違いによるものです。

読み手によって受け取り方が分かれる言葉なので、恥じている対象を文の中に書き込むと誤解が減ります。「準備不足を招いた自分の判断に、忸怩たる思いです」とあれば、悔しさの意味で読む人にも、何を省みているのかが伝わります。

「忸怩たる思い」は、自分の側に省みる点があるときの言葉です。書く前に、恥じ入っている対象が自分の行いかどうかを確かめると、読み手とのずれを防げます。

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