述語を使い回さない|誰が何をするかを迷わせない文の書き方
来期の予算案は総務課がとりまとめ、各課はそれぞれの要望を月末までに提出し、来週の会議で報告します。
会議のあと、議事担当の方がさっと書き起こした決定事項です。この文で、来週の会議で報告するのは誰でしょう。総務課のつもりで書いたのだと思いますが、文の形の上では、直前の主語である「各課」にもつながります。読み手は文末まで来てから、「総務課が」と「各課は」のどちらに結ぶのかを、前へ戻って確かめます。
短くまとめようとすると、いくつもの主語や目的語に、文末のひとつの述語をまとめて預けたくなります。述語は前に並んだ言葉を文末で引き受ける場所で、引き受けるものの行き先が分かれていると、読んだ人はそこから前へ戻ります。 この戻る動きを、述語の側から減らすのが今回の話です。
行為者が替わる手前で分ける
予算案の文では、「とりまとめ」の主語は総務課、「提出し」の主語は各課、「報告します」の主語は総務課のはずです。行為者が途中で入れ替わり、しかも元に戻っています。こういう文は、行為者が替わるところで切り、述語をその主語のそばに寄せると、戻らずに読めます。
来期の予算案は、総務課がとりまとめて来週の会議で報告します。各課は、それぞれの要望を月末までに提出してください。
項目も期日も中身も同じです。「報告します」が「総務課が」のすぐ近くに来て、各課の動作は別の文に移りました。ついでに各課への依頼が「提出してください」と、お願いの形になりました。議事録の一文が、担当ごとの二文に分かれた格好です。
同じことは、学校からの配布物でもよく起きます。
当日は、体操服と水筒、上履きを持参し、保護者の方は体育館へお集まりください。
持参するのは子どもでしょう。でもこの文に書かれている主語は「保護者の方」だけなので、保護者が体操服を持ってくるようにも読めます。
お子さんは、体操服と水筒、上履きを持参してください。保護者の方は、体育館へお集まりください。
行為者が切り替わる文で述語を使い回すと、その動作が誰のものか決まらないので、切り替わる手前で文を分けます。 分けたあとに、それぞれの主語を書いておくことも忘れずに。省いた主語は、述語を分けただけでは戻ってきません。
述語が自然に受けられる相手か
主語ではなく、目的語の側で使い回しが起きることもあります。三つのことを一つの「確認しました」でまとめた文です。
会議では、前回の議事録の内容と、次回の開催日、新しい備品の購入を確認しました。
「議事録の内容を確認」「次回の開催日を確認」は、すんなり通ります。ところが「備品の購入を確認」に当たると、購入は確認したのか決めたのかが、一瞬あいまいになります。三つが同じ形で並んでいるぶん引っかかりはさりげなく、一度だけですが、議事録ではこの一度が後で効いてきます。「購入は決まったんですよね」と、会議に出ていなかった人から聞かれるのはこういう箇所です。
会議では、前回の議事録の内容と次回の開催日を確認しました。新しい備品の購入も、あわせて決めました。
「確認」で自然に受かる二つはまとめ、受からない一つを、会議が実際にした動作に戻しました。見分けるには、文末の述語を取り出して、前に並んだ言葉へ一つずつ当ててみます。 「議事録の内容を確認」「開催日を確認」「備品の購入を確認」と小声で言ってみると、最後だけ相性が悪いのが分かります。
名詞にした動作は、動詞に戻す
述語の使い回しは、動作を名詞にしたときにも起こります。
安全対策については、現地の確認と関係先への連絡を行います。
「確認」と「連絡」を名詞にして、「行います」で一括りにした形です。何をするのかは「行います」まで分からず、そこで初めて前の二つの名詞に動作を当て直します。名詞を動詞に戻し、まとめ役の「行います」を外すと、こうなります。
安全対策については、現地を確認し、関係先へ連絡します。
対象も中身も同じで、動作が前に出ました。「確認」「連絡」「対応」のような名詞が並び、最後に「行います」「実施します」で受けている文は、動詞に戻せないかを疑ってみる価値があります。 行政文書や社内文書に多い形で、名詞にすると改まって見えるために選ばれているようですが、改まって見えることと読みやすいことは別です。
そろった並びはそのままで
分けるのは、行き先が分かれているときに限ります。
議事録には、日時、場所、出席者、決定事項を記録します。
四つとも記録する対象で、主語も同じ。「記録します」がそのまま全部にかかるので、戻る必要がありません。これを「日時を記録します。場所も記録します」と律儀に切ると、句点ばかりが増えて、かえって読みにくくなります。述語を分けるのは、相手によって動作が変わる箇所と、行為者が切り替わる箇所に限ります。 同じ動作で受かる並びまで分けるのは、やりすぎです。
ただ、どこまでが「同じ動作で受かる」かは、文章の調子によって少し変わります。「資料の配布と説明を行います」は、配布も説明も「行う」で受かると見る人もいれば、「資料を配って説明します」のほうが落ち着くと感じる人もいます。意味が変わらないなら、どちらでもよい範囲です。迷うのは、文末の述語を一つずつ当ててみて、最後の一つが浮いたとき。そこだけ分ければ、読んだ人は文末から前へ戻らずに済みます。
出す前に、さっと校正
「この使い方、合っているかな」と迷ったら、書いた文章をLINTOに貼って校正してみてください。誤字や表記のゆれ、読みにくい言い回しまで、無料でまとめて見直せます。メールを送る前、記事を公開する前、SNSに投稿する前のひと確認に、どうぞお役立てください。
この連載の記事
- 前の回:「てにをは」で意味が変わる
- 次の回:並列・対比をそろえる
- 文章力編の入口:わかりにくい文章の特徴と直し方
- LINTOコラムの一覧はこちら。