「てにをは」で意味が変わる|助詞一字で案内の条件を正しく伝える
地域セミナーの案内を出した担当者のところに、こんな返事が届いたとします。「セミナーは何日間あるのでしょうか。最終日まで参加できるか、まだ分かりません」。セミナーは一日だけの予定です。心当たりがなくて案内を読み返すと、こう書いてありました。
会場の都合がありますので、3月5日まで参加されるかどうかをお知らせください。
書いた側は「3月5日までに、参加の有無を知らせてほしい」のつもりです。ところがこの文は、「3月5日まで参加されるか」、5日までずっと出席するのかどうかを尋ねているようにも読めます。どちらの読みも日本語としては自然で、違いは「に」の一字があるかないか。
「は」「が」「を」「に」「まで」のような、語と語のあいだに置く短い言葉を助詞と呼びます。助詞は言葉どうしの関係を示す標識で、向きの情報が一字に託されています。誤字ではないので見直しで素通りしやすいのですが、読み手の受け取り方はこの一字で変わります。一字がずれると、書いた人の思った向きと、受け取った人の読む向きがすれ違います。 講座やイベントの案内で起きやすいものから見ていきます。
「まで」と「までに」で、締切が変わる
さきほどの文は、一字足せば済みます。
会場の都合がありますので、3月5日までに参加されるかどうかをお知らせください。
日付もお願いの中身も同じで、3月5日が返事の締切だということが決まりました。「まで」はそこまで続く期間を、「までに」はそこで区切られる期限を表します。 「受付は17時まで」のように、続いている状態の終わりを言うなら「まで」でよく、「17時までにお越しください」のように、その時点より前に一度すればよい動作なら「までに」です。申し込み、支払い、返事。相手が一度だけ何かをする案内では、ほとんどが「までに」になるはずです。書き終えたら日付の後ろの「まで」を探して、そこで終わる期間なのか、そこまでに一度する動作なのかを見ると、見落としにくくなります。
「は」は文の終わりまで届く
「は」と「が」の違いは説明が難しいのですが、案内文で実際に困るのは、たいてい一つの型です。当日の運営メモに、こんな一文があったとします。
講師の方は到着されたら、2階の控室までご案内します。
案内するのは受付のスタッフのつもりで書いています。けれど「は」で立てた「講師の方」は、文の終わりの「ご案内します」まで主役のまま届くので、講師が誰かを案内するように読めてしまいます。読んだスタッフは一瞬、「講師が案内する?」と引っかかります。
講師の方が到着されたら、2階の控室までご案内します。
「が」に替えると、「講師の方」は「到着されたら」の部分だけの主語になり、「ご案内します」の主語は書かれていない自分たち、スタッフ側だと自然に読めます。「は」の効き目は文末まで届き、「が」はその節の中で終わります。 条件の中の主語と文全体の主語が別の人なら、条件の中は「が」で受けると取り違えが起きません。逆に「参加者の方は、受付で名札をお受け取りください」のように最後まで同じ人の話なら、「は」で立てたままでかまいません。
「と」と「や」で、持ち物が決まるか決まらないか
持ち物の案内で迷いが生まれやすいのが、「と」と「や」です。
当日は、筆記用具やタオルをお持ちください。
書いた側は、筆記用具とタオルの二つを持ってきてほしいだけなのでしょう。ところが「や」は例を挙げる言い方なので、読んだ人は「ほかに何が要るのだろう」と考え始めます。飲み物も要るのか、着替えは。問い合わせが来ることもあります。
当日は、筆記用具とタオルをお持ちください。
「と」は並べたものが全部であることを、「や」はほかにもあることを示します。 持ち物や提出書類のように、相手がそろえて確かめる案内では、「や」を使った時点で一覧が閉じなくなります。ほかにも持ってきてよいものがあるなら、「筆記用具とタオルのほか、必要な方は飲み物をお持ちください」と、何が必須で何が任意かを分けて書くほうが相手は迷いません。
「の」でまとめると、誰がするのかが隠れる
「の」は便利です。名詞と名詞をつなぐだけで短くまとまります。便利なぶん、関係を「の」ひとつに押し込むと、誰が何をするのかが見えなくなることがあります。
当日は、受付で保護者の確認をお願いします。
「保護者の確認」は、保護者が何かを確認するのか、保護者を確認するのか、この文だけでは決まりません。受付係への指示なのか、保護者へのお願いなのかも、宛先しだいで変わります。
当日は、受付で保護者の方にご本人かどうかの確認をお願いします。
「の」でまとめていた関係を、誰に何を確かめてほしいかが分かる形に戻しました。動きが隠れた「の」は、いったん「誰が何をする」の文に戻すと、関係がはっきりします。 すべての「の」をほどく必要はなく、「受付の机」「来月の講座」のように、ものとものの関係が明らかな「の」はそのままで読めます。
直す場所の見分けについて、一つ付け加えておきます。助詞のゆれには、意味が変わるものと変わらないものがあります。「9時より開始」と「9時から開始」、「事務局へご連絡」と「事務局にご連絡」は、どちらで書いても相手の動きは変わりません。こういうゆれは表記の統一の問題ではあっても、読みにくさの問題ではないので、ここで追う必要はないと思います。見直したいのは、締切と期間、条件の中の主語、全部か例か、誰が何をするのかというように、一字で相手の行動が変わる場所です。
案内を出す前に、日付の後ろ、「は」で立てた主語、「や」、動きを含んだ「の」。この四つを指でたどって、ひとつずつ「相手はどう読むか」を試してみる。五分もかかりませんが、「何日間あるのですか」という返事は来なくなります。
出す前に、さっと校正
「この使い方、合っているかな」と迷ったら、書いた文章をLINTOに貼って校正してみてください。誤字や表記のゆれ、読みにくい言い回しまで、無料でまとめて見直せます。メールを送る前、記事を公開する前、SNSに投稿する前のひと確認に、どうぞお役立てください。
この連載の記事
- 前の回:読点の打ち方で意味を切る
- 次の回:述語を使い回さない
- 文章力編の入口:わかりにくい文章の特徴と直し方
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