間違えやすい日本語 / 第67回
「状況を鑑みる」は間違い?「に鑑みる」だけが正解なの?
「現在の状況を鑑みて判断しました」の「を」は、必ず「に」へ直すべきなのでしょうか。「に鑑みる」も「を鑑みる」も辞書に用例があり、助詞だけを理由に一律に誤りとは言えません。
「鑑みる」は何かに照らして考えること
「鑑みる」は「かんがみる」と読み、先例やほかの物事に照らして考える意味です。「鑑」には手本という意味があります。
前回の混雑に鑑みて、受付を二か所に増やした。
前回の状況を判断の手掛かりにしています。「前回の混雑を鑑みて」という形も、「を」があるから即座に文法違反となるわけではありません。
毎日新聞校閲センターは、『岩波国語辞典』第8版や『明鏡国語辞典』第3版が、両方の形を用例に載せていることを確認しています。ある組織が「に」で統一する場合でも、その組織の基準と日本語全体の許容範囲は分けられます。
「考慮する」とどう違う?
「事情を考慮する」は、事情を判断の中に入れて考えることです。「鑑みる」は、照らし合わせる対象を意識させます。意味は近いものの、難しい方に置き換えれば文章がよくなるわけではありません。
「参加人数を考慮して部屋を選んだ」なら、そのままで自然です。「参加人数に鑑みて」としても内容が急に深くなることはありません。
前回、入口に人が集中したため、今回は受付を二か所に増やします。
具体的な因果関係が分かっているなら、こう書くこともできます。「状況を鑑みて」と抽象的にまとめるより、変更の理由が読み手に届きます。
助詞を選ぶときは、まず媒体の統一方針を確認できます。そのうえで、何に照らしてどう判断したかが分かるかを見ます。「に」へ一字変えるだけでは、曖昧だった理由までは明確になりません。
「鑑みる」と「顧みる」は同じ意味?
「顧みる」は「かえりみる」と読み、過去を振り返ることや、気に掛けることに使います。「鑑みる」と字の雰囲気は似ていますが、いつでも交換できる語ではありません。
昨年の活動を顧みる。 昨年の混雑に鑑みて、今年は予約制にする。 周囲の反対を顧みず、計画を進めた。
最初は過去の活動を振り返り、二つ目は以前の状況を今の判断に生かしています。三つ目は、反対を気に掛けなかったという意味です。いずれも過去や周囲に関わる語が続いていますが、文の中で行っていることは異なります。
自分の反省を書きたいなら「対応を振り返る」、判断の根拠を示したいなら「前回の結果を踏まえる」と言い換えると、混同しにくくなります。漢字の難しさではなく、振り返るのか、照らして判断するのかで選べます。
「諸事情に鑑みて」だけでは理由が見えない
「諸事情に鑑みて延期します」は改まった文ですが、読み手には、何が延期の理由なのか分かりません。事情を詳しく公表できない場合もあるとしても、示せる範囲の情報は添えられます。
会場の工事が予定より長引いているため、開催を延期します。 来場者の移動への影響に鑑みて、開始時刻を一時間遅らせます。
最初は直接の原因を示しています。二つ目は、移動への影響を判断材料にしたことを示しています。「鑑みて」を使う方が、常に正式で丁寧になるわけではありません。
また、「鑑みた結果、検討して判断しました」と重ねても、判断の内容が具体的になるとは限りません。「何を手掛かりに、どう決めたか」が一度ずつ書かれていれば十分な場合があります。語を削ることを目的にせず、根拠と結論のつながりが読める形を目指すと、難しい語に頼り過ぎずに済みます。