「気が置けない」の意味と使い方|油断できない相手のことではありません
旅館の案内文や居酒屋の紹介に、「気の置けない仲間と、ゆっくり過ごす夜を」のような一節がよくあります。この「気の置けない」を「油断できない」の意味で読むと、かなり物騒な宿になります。もちろん書いた人は、遠慮のいらない、気楽な仲間のつもりで書いています。そしてそれが、この言葉のもとの意味です。
「気が置ける」を打ち消している
先に、打ち消す前の形から見ておきます。「気が置ける」は、遠慮される、気を使って打ち解けられない、という意味です。「初対面の人ばかりの席で、どうにも気が置ける」。この言い方は今では古めかしく、聞く機会がほとんどありません。
「気が置けない」はその打ち消しですから、遠慮も気配りも要らず、気楽に付き合えるという意味になります。「気の置けない」と「の」でつなぐ形も同じ意味で、連体修飾ではこちらのほうがよく見かけます。「気の置けない友人」「気の置けない仲間」は、どちらも肩の力を抜いて会える相手のことです。
「信用が置けない」と「気が抜けない」に引っ張られる
油断できない、という読み方が広がったのには、はっきりした理由が二つあると思います。
一つは「信用が置けない」「信頼が置けない」です。こちらの「置けない」は、信用を置くことができない、信じられないという意味で、相手への評価は低い。「気が置けない」も同じ「〜が置けない」の形なので、同じ向きに読んでしまう。もう一つは「気が抜けない」で、こちらは一字違いで油断できないという意味です。「気が抜けない相手」と「気が置けない相手」は、目で見ても耳で聞いても近い。この二つに両側から引っ張られれば、「気が置けない」が警戒の言葉に見えてくるのは無理もありません。
打ち消す前の「気が置ける」が聞かれなくなったことも、追い打ちになっています。もとの形を知らなければ、「置けない」の意味は、ほかの「置けない」から推し量るしかないからです。
二つの文を並べてみる
「先方の部長は気が置けない人だから、数字は念入りに確かめておいて」。書いた人は、油断できない人だと言いたいのでしょう。けれど言葉を知っている人がこの文を読むと、気楽な部長なのになぜ念入りに確かめるのか、とつながりが分からなくなります。警戒を伝えたいなら、気が抜けない人、油断できない人と書けば、迷いなく届きます。
「同期は気の置けない相手なので、ぐちも言いやすい」。こちらはもとの意味の使い方で、気楽だからぐちも言える、と前後が素直につながっています。
伝わりにくいと感じたら
読む相手がどちらの意味で受け取るか分からないとき、気楽さを言うなら気の張らない、気兼ねのいらない、遠慮のいらない、打ち解けたが同じ場所にいる言葉です。似ているようで少し違うのが「気を遣わない」で、こちらは相手への配慮が足りない、という悪い意味にも読めます。「気の置けない」はお互いに遠慮がいらない状態を指すので、無神経さとは別のものです。
それでも「気の置けない仲間と」という書き方には、言い換えでは出ない味があります。「仲間と」「ゆっくり」といった前後の言葉が気楽さを支えてくれる文なら、取り違えられる心配は小さい。一方で「気の置けない相手」とだけ書いて前後に手がかりがないときは、どちらにも読まれます。使うかどうかは、周りの言葉がどれだけ助けてくれるかで決めるのがよさそうです。
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この記事は「間違えやすい日本語⑥」の一語です。