間違えやすい日本語⑥:「御の字」「やぶさかでない」「気が置けない」の正確な意味とは?
今回の3つは、どれも少し古風な言葉です。日常の会話で口にする人は減りましたが、改まったメールや挨拶文、旅館の案内のような書き言葉には、まだよく顔を出します。使われる場所が限られているぶん意味を確かめ直す機会がなく、受け取る側の読み方が、もとの向きから反対寄りへじわじわと傾いてきました。
3つのうち2つは、打ち消しの形をしています。「やぶさかでない」は「やぶさか」を、「気が置けない」は「気が置ける」を打ち消したもの。ところが打ち消される側の「やぶさか」「気が置ける」のほうが、単独ではほとんど聞かれなくなりました。残ったのは打ち消しの形だけ。何を打ち消しているのか分からなくなった言葉は、似た形をした別の言葉に引き寄せられていきます。「御の字」は打ち消しではありませんが、こちらは使われる場面のせいで、控えめな意味に引っ張られたのだと思います。
「御の字」は、頭が下がるほどの満足
「御」の字を付けて呼びたいほど結構なもの、というのが「御の字」の成り立ちです。意味は大いにありがたい、十分に満足だ。「この天気で開催できただけで御の字だ」は、天気の悪さを嘆いているのではなく、開けたことに感謝しています。「まあ御の字かな」と妥協の意味で使うと、この言葉が持っている満足の度合いより、かなり低く響きます。
満点の言葉がどうして「まあまあ」まで下がってきたのか。「御の字」の意味と使い方では、江戸の遊里から来たとされる由来と、下がってきた経緯の推測を書いています。
「やぶさかでない」は、しぶしぶではなく快諾
「吝か(やぶさか)」は、物惜しみする、ためらう、という意味の言葉です。それを打ち消しているので、「やぶさかでない」は喜んで引き受ける、努力を惜しまない。「協力するにやぶさかではない」は、気乗りしないまま渋々うなずいた返事ではなく、前向きな返事です。「〜ではない」の形が「悪くはない」と同じ控えめな肯定に見えるため、「やってもいいが気は進まない」と読まれるようになったのでしょう。
二重否定のほどき方と、前向きさをまっすぐ届ける書き方は「やぶさかでない」の意味で。
「気が置けない」相手は、油断できない人ではない
「気が置ける」は遠慮が要る、気を使うという意味で、「気が置けない」はその打ち消しです。遠慮も気配りも要らず、気楽に付き合える相手に使います。「気が置けない友人」は、肩の力を抜いて会える友人のこと。「信用が置けない」の「置けない」と同じ向きに読んでしまうと、意味がひっくり返ります。
一字違いの「気が抜けない」との混同も含めて、「気が置けない」の意味と使い方で整理しました。
まとめ:正誤早見表
| 言葉 | よくある誤解 | 本来の意味 |
|---|---|---|
| 御の字 | 一応、納得できる。まあまあ | 大いにありがたい。非常に満足だ |
| やぶさかでない | 仕方なくする。気乗りしないがやってもいい | 喜んでする。努力を惜しまない |
| 気が置けない | 気を許せない。油断できない | 遠慮や気配りが要らず、気楽に付き合える |
出典:文化庁「国語に関する世論調査」 平成20年度 / 平成24年度 / 平成25年度
「御」は敬意の字、「やぶさか」は物惜しみ、「気が置ける」は遠慮。打ち消される前の姿を一度見ておくだけで、次に旅館の案内文で「気の置けない仲間と」を見かけたとき、読み方が変わっているはずです。
出す前に、さっと校正
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この連載の記事
- 前の回:間違えやすい日本語⑤:「うがった見方」「他山の石」「情けは人のためならず」
- 次の回:間違えやすい日本語⑦:「世間ずれ」「浮き足立つ」「檄を飛ばす」
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