「御の字」の意味と使い方|「まあまあ」よりずっと上の満足
運動会の前夜に雨が降り、朝には小雨になり、昼前にやみました。開会は一時間遅れ、種目は二つ減ったけれど、閉会まで無事にたどり着いた。その日の夕方、担当の先生が同僚に「できただけで御の字ですよ」と言ったとします。この先生は、どのくらい満足しているのでしょうか。
「まあまあ、ぎりぎり及第点」くらいに受け取る人が、いまは少なくないようです。けれど辞書を引くと、「御の字」には「非常にありがたいもの」「大いに満足できるもの」、さらに「最上のもの」といった説明が並んでいます。先生が言っているのは不満の残る妥協ではなく、開けたことへの安堵と感謝です。満足の目盛りは、思っているよりずっと上にあります。
「御」の字を付けて呼びたいほど
「御」は「御礼」「御殿」の御で、相手やものを敬うときに付ける字です。「御の字」は、その「御」を付けて呼びたいほど結構なもの、という成り立ちだと辞書は説明しています。江戸時代の遊里で生まれた言い方だとされますが、どんな場面でどう使われ始めたのかまでは、確かなことは言いにくいところです。それでも「御を付けたいほど」という組み立てで各辞書の説明は一致していて、ここが意味の芯になります。
ですから「御の字」は、大いにありがたい、十分に満足だという言葉です。「初月で黒字なら御の字」「返事をもらえただけで御の字」。どれも、それが実現したら手を合わせたいくらい、という気持ちを含んでいます。
どうして「まあまあ」に下がったのか
これは推測ですが、使われる場面のせいという気がします。御の字が出てくるのは、状況が良くなかったときがほとんどです。雨が降った、予算が削られた、人手が足りなかった。期待をいったん下げたところで、それでも結果が出た。この「期待を下げた」部分だけが耳に残ると、低い水準で手を打ったように聞こえます。
もう一つ、「〜できれば御の字」という条件付きの形で使われることが多いのも、たぶん影響しています。「〜できれば」は最低ラインを言う形に似ているので、御の字そのものが「最低限クリア」の意味に寄っていったのでしょう。言葉の中身は満点寄りなのに、置かれる場所が控えめだった。そういう言葉です。
「まあ御の字」は、言葉同士がけんかしている
いまの使い方で気になるのが、「まあ御の字かな」という組み合わせです。「まあ」は満足度を一段下げる言葉で、「御の字」は満足度が高い言葉。並べると、片方が片方を打ち消しています。意味が通じないわけではありませんが、言葉を知っている人には、妥協の気持ちが「御の字」の上にかぶさって聞こえます。
本当に「まあまあ」と言いたいなら、まずまず、及第点、悪くないと言ったほうが、気持ちの大きさがそのまま伝わります。逆にありがたさを言いたいなら「御の字」で足りますし、もっと改まった場なら望外、くだけた場なら上出来、願ってもないが近い仲間です。「望外の結果」と「御の字」は、どちらも期待を超えたときの言葉で、だいぶ近い場所にいると思います。
一つだけ、使う向きに注意があります。「御の字」は自分側の結果に使う言葉で、相手に向けると角が立ちます。「ご発注いただけただけで御の字です」と取引先に書くと、言葉の意味は感謝でも、受け取った側には「もとから期待していなかった」と聞こえかねません。感謝を言うなら「ありがたく思っています」とそのまま書いて、御の字は社内の打ち上げまで取っておくのがよさそうです。
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この記事は「間違えやすい日本語⑥」の一語です。