読めそうで読めない漢字 / 第110回
「稟議」は「りんぎ」?「ひんぎ」?「決裁」との違いも確認
「稟議に回す」「稟議が通る」。耳では知っていても、文字を見て「りんぎで合っているのかな」と迷うかもしれません。現在、広く使われる読みは「りんぎ」です。
辞書には「ひんぎ」もあり、「りんぎ」をその慣用読みとして説明しています。読み方の来歴に加え、「稟議を出した」と「承認された」が別の段階であることも押さえておきましょう。
「稟議」の「稟」は、受ける・申し上げる意味を持つ
「稟」には「りん」「ひん」という音があり、受ける、申し上げるといった意味があります。「天稟(てんぴん)」のように、生まれつき授かったものに関わる語にも使う字です。「禀」は異体字です。
「稟議」は、上位の人にはかって判断を求めることに関わる語です。会社や官庁などで、担当者が案を作り、関係者に回して承認を求める方法を指します。会議で皆が同時に集まる方法とは、進め方が異なります。
『デジタル大辞泉』は「りんぎ」を「ひんぎ」の慣用読みとしています。「りんぎ」は、単に最近誰かが読み間違えた音として扱われているわけではありません。日常の文書で「稟議書」を読むなら「りんぎしょ」が通じやすい形です。
「稟議に回す」と「稟議が通る」は別の段階
「機器を買い替える稟議を出した」は、買い替えの案について承認を求めたことを表します。この時点では、購入してよいという判断が済んだとは限りません。
「稟議が通った」は、提案が承認されたという意味で使われます。「稟議が回っている」なら、関係者が確認する途中と読めます。
| 言い方 | 表している段階 |
|---|---|
| 稟議書を作成している | 承認を求める案や理由をまとめている |
| 稟議に回した | 関係者の確認や承認を求めている |
| 稟議が通った | 案が承認された |
| 稟議が差し戻された | 修正や再検討を求められた |
「稟議を出したので、購入が決まりました」と書くと、依頼した段階と決定した段階が混ざることがあります。現状を伝えるなら、「現在は承認を待っています」「購入が承認されました」と段階を明示すると分かりやすくなります。
「決裁」と「回覧」は何が違う?
「決裁」は、権限のある人が案の可否などを決めることです。「稟議」は、その判断や関係者の承認を求めるための進め方に注目する語として使えます。「稟議書を回して決裁を受ける」と書けば、二つの役割が一文に収まります。
「回覧」は、文書などを順に回して見てもらうことです。単なるお知らせの回覧では、読んだ人に賛否の判断を求めていないこともあります。回しているからすべて稟議になる、というわけではありません。
例えば、「館内の清掃予定を回覧する」は情報の共有です。「清掃用具を新しく買う案を稟議にかける」は、提案を実行するための承認を求める場面です。読み手に確認してほしいのか、判断してほしいのかを分けると、言葉も選びやすくなります。
電子文書でも「稟議」と呼べる
「稟議書」と聞くと、紙の書類に印を押して回す姿を想像するかもしれません。しかし、語の意味の中心は紙や印鑑そのものではなく、案を関係者に示して承認を求めることです。電子的に回す手続でも「電子稟議」と呼べます。
具体的な承認の順番や、誰が最終判断をするかは組織によって異なります。「稟議」という語だけで、全員の賛成が必要だとか、一定の日数で決まるといった条件までは読み取れません。
「りんぎ」という読みとともに、提案、確認、承認という段階を意識してみてください。「稟議中」の短い一言からでも、まだ何が決まっていないのかを確かめやすくなります。