読めそうで読めない漢字 / 第111回
「蹉跌」の読み方は「さてつ」?意味と「挫折」との違い、「蹉跌をきたす」の使い方
「蹉跌」は「さてつ」と読みます。二つの字はどちらも足へんで、どちらにも「つまずく」という訓があります。足がつまずくことから、物事がうまく進まずにしくじることを表すようになった言葉です。 「計画に蹉跌をきたす」のように、改まった文章で目にすることが多いでしょう。
足へんの「差」と「失」で「さ」「てつ」
読み方の手がかりは、それぞれの字の右側にあります。「蹉」は足へんに「差」を合わせた字で、音も「差」と同じ「サ」です。「跌」は足へんに「失」で、音は「テツ」。人事の記事で見かける「更迭(こうてつ)」の「迭」も、同じく「失」を含み「テツ」と読みます。
左側の足へんは、意味の手がかりです。「蹉」も「跌」も、足を取られる、踏み外すといった動きを表す字です。「つまずく」を漢字で書く「躓く」も、やはり足へんです。読みは右側、意味は左側と分けて見ると、初めて見たときにも見当がつけやすくなります。
意味は「つまずき」から「しくじり」へ
精選版 日本国語大辞典の「蹉跌」は、一つ目の意味に「つまずくこと」、二つ目に「しくじること。失敗。また、行き詰まること」を挙げています。今使われるのは、ほとんどが二つ目の比喩の意味です。同じページのデジタル大辞泉も、用例に「計画に蹉跌をきたす」「事業が蹉跌する」を挙げ、計画や事業がうまくいかない場面を示しています。失敗の意味の用例としては、江戸時代の頼山陽『日本外史』や、明治の坪内逍遥『当世書生気質』が引かれており、古くから書き言葉で使われてきたことが分かります。
題名でこの字を覚えた人もいるかもしれません。石川達三の小説『青春の蹉跌』は1968年に毎日新聞で連載され、1974年には映画にもなりました。野心を抱いた青年が破滅へ向かう筋書きに、「つまずき」の語がそのまま重なります。
「挫折」「頓挫」とはどう違う?
どれも物事がうまくいかないことを表しますが、目を向けるところが少しずつ違います。
| 言葉 | 中心にある意味 | 例 |
|---|---|---|
| 蹉跌 | つまずいて、しくじること | 計画に蹉跌をきたす |
| 挫折 | 途中でだめになること。気持ちがくじけること | 夢に挫折する |
| 頓挫 | 勢いよく進んでいたものが、途中で行き詰まること | 交渉が頓挫する |
「挫折」は、計画だけでなく人の気持ちがくじける場面にもよく使います。「挫折感」「挫折を味わう」のように、本人の心の動きを語る言い方が豊富です。「頓挫」は、進んでいた勢いが急に止まる様子が中心です。「蹉跌」は、歩みの途中で足を取られたという、つまずきそのものに焦点があります。『青春の蹉跌』のように人生の一時期のつまずきにも使えますが、くじけた気持ちより、出来事としての失敗を指す響きが強めです。
使うなら「蹉跌をきたす」の形で
「蹉跌」は文章語で、会話ではまず使いません。名詞として「蹉跌をきたす」、動詞として「蹉跌する」と言えるほか、「思わぬ蹉跌」「一度の蹉跌」のように形容する語を前に置く形もなじみます。社史や評論で「創業期の蹉跌を乗り越えて」と書けば、引き締まった調子が出ます。
一方、社内の連絡で「進行が蹉跌をきたしています」と書くと、硬すぎて状況が伝わりにくくなります。「予定どおりに進んでいません」「二つの工程でつまずいています」のように、何がどこで止まっているかを書くほうが、相手はすぐに動けます。
読み手や場面に合わせて、「蹉跌」と「つまずき」を使い分けられると便利です。足へんの二字を見かけたら、「足を取られた」場面を思い浮かべてみてください。