LINTO
一覧に戻る

「采配を振る」の意味と使い方|「振るう」は誤りなのか

辞書で「采配」を引くと、はじめに出てくるのは道具の説明です。柄の先に、厚紙や毛を細く切った房をつけたもの。戦場で大将が、これを振って兵を動かしました。その道具の名前がやがて指揮そのものを指すようになり、「監督の采配」「采配ミス」のように、いまでは野球の記事で毎日のように目にします。名詞としてはすっかりなじんでいるのに、動詞をつける段になると、「振る」なのか「振るう」なのか、手が止まる人は多いようです。

もとの形は「采配を振る」

もとの言い回しは「采配を振る」です。采配は手に持って振る道具なので、旗を振る、手を振る、指揮棒を振る、と同じ「振る」。意味は、指揮する、指図すること。「現場の采配を振るのは彼です」なら、現場を仕切っているのは彼だ、ということになります。「采配を執る」という言い方もあって、こちらも同じ意味です。

「振る」と「振るう」は、よく似ていて役割が違います。「振る」は物を揺り動かすこと。「振るう」は、力や能力をじゅうぶんに発揮することで、「腕を振るう」「権力を振るう」「猛威を振るう」が典型です。采配という物を動かすのだから「振る」、というのがもとの理屈です。

「振るう」がこれだけ広まった理由

それでも「采配を振るう」はよく見かけますし、口に出してみると、こちらがしっくりくる人も多いのではないでしょうか。采配を振る場面では、実際に権限や力量を発揮しているわけで、「腕を振るう」「権力を振るう」の仲間として捉えるのは自然な連想です。それに「振るう」には、「刀を振るう」のように物を勢いよく振り動かす意味もあって、こちらから入れば、采配を振るうこともまったくの筋違いとは言えません。

少し脇道になりますが、「指揮」の「揮」は、それだけで「ふるう」と読む字です。「発揮」の「揮」も同じで、力を外へ出す、という意味を持っています。采配を振ることが指揮することなら、その指揮という言葉の中にすでに「ふるう」が入っている。「振るう」が広まった背景には、こんな字の事情も少しは関わっているのかもしれません。

そうした事情もあって、いまでは「采配を振るう」を許容として載せている辞書もあります。「振るう」と書いてある文章を見つけても、誤りだと赤を入れるのはためらわれるところです。この言葉は、意味を取り違えているわけではなく、形がもう一つ増えただけと捉えるのが、いちばん実態に近いと思います。

どちらを選ぶか

それでも、あらたまった文章でどちらを選ぶかと聞かれれば、「采配を振る」を勧めたいところです。辞書が第一に挙げる形で、「振るう」になじんだ人が読んでも引っかかりません。逆に「振るう」は、形にうるさい人が読むと気になることがある。

動詞の形で迷うのが面倒なら、名詞のまま使う手もあります。「監督の采配が光った」「人員の配置は現場の采配に任せる」。この形なら、振るか振るうかを決めなくてすみます。言い換えるなら「指揮する」「仕切る」「取りまとめる」で、ほとんどの場面はそれで通ります。

「采配を振る」も「采配を振るう」も意味は同じで、聞く人を混乱させる言葉ではありません。ただ、房のついた道具を手に持って振っていた、という元の絵を思い浮かべると、「振る」のほうがその絵に近い。そのくらいの話です。

出す前に、さっと校正

「この使い方、合っているかな」と迷ったら、書いた文章をLINTOに貼って校正してみてください。誤字や表記のゆれ、読みにくい言い回しまで、無料でまとめて見直せます。メールを送る前、記事を公開する前、SNSに投稿する前のひと確認に、どうぞお役立てください。

あわせて読みたい

この記事は「間違えやすい日本語⑨」の一語です。