間違えやすい日本語⑨:「流れに棹さす」「二の舞」「采配を振る」の正確な意味とは?
今回の3つには共通点があります。舟を進める棹、舞楽の演目、戦場で大将が振った房付きの道具。どれも、ふだんの暮らしで実物を目にすることがほとんどなくなったものです。実物を知っていれば迷わない言い回しでも、字と音だけが残ると、そこから意味や形を推し量るほかありません。棹は舟を止める杭に思えてくるし、舞は踏むものに思えてくる。
ずれ方はそれぞれ違います。「流れに棹さす」は意味の向きが裏返り、「二の舞」は続く動詞が入れ替わり、「采配を振る」は動詞が一文字伸びました。向きの話と形の話が混ざっているので、まず3語を並べて、どこが動いたのかを見ておきます。
「流れに棹さす」は、逆らうのではなく勢いに乗ること
「改革の流れに棹さすような発言」と書くと、多くの人は「流れを邪魔する発言」と読みます。けれど舟の棹は、川底を突いて舟を前へ押し出す道具です。流れている川で棹をさせば、舟はいっそう速く進む。だから本来は、流れに乗って、勢いをさらに加えることを言います。邪魔どころか、後押しです。
漱石が『草枕』の書き出しで使ったのもこの意味でした。なぜ逆向きに転がったのかは、棹という道具の話とあわせて「流れに棹さす」の本来の意味で。
「二の舞」は、演じるものであって踏むものではない
「前任者の二の舞を踏まないように」。よく見かける書き方ですが、もとの言い回しは「二の舞を演じる」です。二の舞は舞楽の演目で、直前の演目を真似て、わざと失敗しながら舞う滑稽な舞のこと。そこから、人のあとに続いて同じ失敗を繰り返すことを指すようになりました。「踏む」が入り込むのは、ためらう意味の「二の足を踏む」と混ざるからでしょう。
もう一つ、失敗に限る言葉だという点も見過ごされがちです。どんな舞から来た言葉なのかは、「二の舞」の意味と正しい使い方に書きました。
「采配を振る」は形の揺れで、意味は変わっていない
この一語だけ、少し性格が違います。意味の取り違えではなく、「振る」か「振るう」かという形の問題だからです。采配は、大将が兵を指揮するために振った房付きの道具。手で振る物なので、もとの形は「采配を振る」。意味は指揮する、指図することで、こちらは揺れていません。「振るう」は「腕を振るう」「権力を振るう」に引かれて広がった形で、いまでは許容として載せる辞書もあります。
ですから「振るう」と書く人を誤りと言い切るのは、ためらわれます。それでも、あらたまった文章でどちらを選ぶかには考えどころがあって、「采配を振る」の意味と使い方ではそこを中心に。
まとめ:正誤早見表
| 言葉 | よくある誤解 | 本来の意味 |
|---|---|---|
| 流れに棹さす | 流れに逆らう、水を差す | 流れに乗って、勢いをさらに加える |
| 二の舞 | 「二の舞を踏む」。失敗に限らず同じことを繰り返す | 「二の舞を演じる」。人のあとに続いて同じ失敗を繰り返す |
| 采配を振る | 「采配を振るう」がもとの形 | もとの形は「采配を振る」。指揮する、指図する |
出典:文化庁「国語に関する世論調査」 平成24年度 / 平成29年度(「二の舞」は調査対象外のため、辞書の記述をもとにしています)
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この連載の記事
- 前の回:間違えやすい日本語⑧:「さわり」「佳境」「閑話休題」
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