間違えやすい日本語⑩:「悪運が強い」「名前負け」「枯れ木も山の賑わい」の正確な意味とは?
褒めたつもりなのに、言葉の上では褒めていない。最終回に集めたのは、そういう三つです。
「悪運が強い」は、危ないところを切り抜けた人をたたえるつもりで使われますが、古くからの意味では、その人が悪いことをしたと言っているのと同じになります。「枯れ木も山の賑わい」は人を誘う言葉ではなく、自分を低くして参加する言葉です。この二つは、意味を知らない相手には通じ、知っている相手にだけ引っかかる。「名前負け」は少し事情が違って、ほとんどの人が正しく使えているのに、若い世代に気後れの意味で読む人が出てきています。意外なのは、むしろこの語かもしれません。
「悪運が強い」の「悪運」は、悪事の報いを受けない運
事故に遭いかけて無傷だった人に「悪運が強いね」と言う。いまならごく自然な褒め言葉です。ただ、辞書で「悪運」を引くと、悪いことをしても、その報いを受けずに栄えていられる運という意味が載っています。悪人が捕まったときの「悪運が尽きた」は、この意味です。
不運に遭っても助かる運の強さという新しい意味を載せる辞書も出てきたので、誤用と言い切るのは乱暴でしょう。それでも人を褒める文章では、「運が強い」のほうが余計な含みがありません。「悪運が尽きる」と対にすると向きがつかみやすいので、「悪運が強い」の意味と使い方ではそこから話を始めています。
「名前負け」で負けているのは、自分の名前に
この言葉は、ほとんどの人が字引どおりに使えています。名前が立派すぎて、実物がそれに釣り合わないことで、負けている相手は他人ではなく自分の名前です。
とはいえ、若い世代には「相手は有名校だから、試合前から名前負けしていた」のように、相手の名声に気後れする意味で読む人が出てきているようです。気後れを言いたいときの別の言葉と、「〜負け」という言葉のつくりから意味をたどる話は、「名前負け」の意味と使い方に書きました。
「枯れ木も山の賑わい」は、自分に使う言葉
同窓会の案内に「枯れ木も山の賑わいですから、皆さんお越しください」と書くと、来てくださる方々を枯れ木にたとえた形になります。このことわざは、つまらないものでも、無いよりはにぎわいの足しになるという、自分を低くして参加するときの言い回しで、「枯れ木も山の賑わいと思って、顔だけ出します」がもとからの使い方です。
年配の方に向けて使うと、二重に失礼になりかねません。誘う側は何と言えばいいのか、「枯れ木も山の賑わい」の正しい使い方で、幹事の立場から考えてみました。
まとめ:正誤早見表
| 言葉 | よくある誤解 | 本来の意味 |
|---|---|---|
| 悪運が強い | 不運に遭っても助かる運が強い | 悪いことをしても、その報いを受けない運が強い |
| 名前負け | 相手の名声や肩書きに気後れする | 名前が立派すぎて、実物が釣り合わない |
| 枯れ木も山の賑わい | 人が集まればにぎやかになる | つまらないものでも、無いよりはにぎわいの足しになる |
出典:文化庁「国語に関する世論調査」 平成26年度 / 令和5年度(「名前負け」は本来の意味で受け取る人が大多数という結果で、ここでは辞書の記述をもとにしています)
十回分を振り返って
ここまで三十の言葉を見てきました。「役不足」のように意味が逆さまになったもの、「爆笑」のように誤用と言われた側が辞書に載っていったもの、「采配を振るう」のように形だけが揺れているもの。言葉は辞書に書かれたとおりに止まっているわけではなく、使う人の多いほうへ少しずつ動いていくのが分かります。
それでも、人に渡す前に気になる言葉を一度引いてみる習慣には、意味があると思います。会話なら言い直せますが、書き言葉は相手の手元に残ります。いまの意味と古い意味の両方を知ったうえで、相手に合わせて選ぶ。その一手間が文章の信用になります。連載はここで一区切り。送信ボタンを押す前に三十語のどれかがふと引っかかってくれれば、この連載の仕事はそこまでで、あとは辞書にお任せします。
出す前に、さっと校正
「この使い方、合っているかな」と迷ったら、書いた文章をLINTOに貼って校正してみてください。誤字や表記のゆれ、読みにくい言い回しまで、無料でまとめて見直せます。メールを送る前、記事を公開する前、SNSに投稿する前のひと確認に、どうぞお役立てください。
この連載の記事
- 前の回:間違えやすい日本語⑨:「流れに棹さす」「二の舞」「采配を振る」
- LINTOコラムの一覧はこちら。