主語と述語が離れた文を直す|読み手を迷わせない文の組み立て方
次の一文で、管理員さんは何をしたのでしょうか。
管理員さんが、先週から雨漏りのしていた駐輪場の屋根について業者に点検を頼み、屋根のつなぎ目が傷んでいると分かったため、応急の処置をしてくれました。
点検を頼んで、処置をした。答えは二つあって、しかもその二つの間に、雨漏りの時期と、つなぎ目が傷んでいた話が入っています。文末の「処置をしてくれました」に着いたとき、文頭の「管理員さんが」を覚えていられたでしょうか。マンションの回覧板でこういう文に出会うと、読み終えてから頭の中で「管理員さんが」と「してくれました」をもう一度結び直すはめになります。読めはします。ただ、一度では済まない。
主語は「誰が」「何が」、述語は「どうした」「どうなった」にあたる部分です。この二つが、読む人が文の骨組みをつかむための線で、線が長く伸びるほど、覚えたまま読む時間が増えます。
文末に着いてから、戻りたくなる理由
日本語は述語が文末に来るので、文頭で主語を受け取ったら、間の説明を全部通り過ぎてから、最後に述語と結びます。間が短ければ気になりません。長いと、述語に着いた時点で主語の印象が薄れていて、前に戻って確かめたくなります。主語と述語が近いほど、覚えておく時間が短く、戻る回数も減ります。
さきほどの回覧の文では、主語と述語の間に、雨漏りの時期、業者への点検依頼、つなぎ目の傷みという三つの話が挟まっていました。骨組みだけなら「管理員さんが、応急の処置をしてくれました」で、それ以外は全部、処置に至った経緯です。経緯が長いほど、用件が薄れます。
骨組みを先に見せて、経緯は次の文へ
直し方は、主語と述語を近づけて、間に挟まっていた長い説明を後ろの文へ送る、これに尽きます。短い理由なら、文の頭にまとめても邪魔になりません。
先週から雨漏りがしていたため、管理員さんが駐輪場の屋根に応急の処置をしてくれました。業者に点検を頼んだところ、屋根のつなぎ目が傷んでいると分かりました。
「管理員さんが」と「してくれました」の間に残ったのは「駐輪場の屋根に応急の」で、点検と傷みの経緯は次の文に移りました。回覧板を立ち読みする人は、一文目で「屋根は直った」と分かり、詳しく知りたければ二文目を読めばよい、という読み方ができます。
主語そのものが長い文も、同じ考え方で軽くなります。「先月の総会で出された意見をまとめた、今年度の植栽の手入れについての要望書は」のように、主語の前に説明を積み上げてしまう形です。この場合は先に「要望書は、来月の理事会で検討します」と骨組みを見せて、どんな要望書かは次の文で補うほうが、待たされる時間が短くなります。
遠くなると、向きまでずれる
主語と述語が離れた文では、距離の問題にとどまらず、二つの対応そのものがずれることがあります。書き出しの主語と文末の述語が、別のものを指している状態です。
今回の防災訓練は、当日の参加者から出た意見をもとに集合場所を見直し、来年からは各棟の持ち回りで誘導係も務めていただきます。
主語は「今回の防災訓練は」、述語は「見直し」と「務めていただきます」。防災訓練が集合場所を見直すわけではなく、見直すのは役員で、誘導係を務めるのは来年の住民です。報告のつもりで書き出して、書き進むうちに来年のお願いへ主役が移った、というずれでしょう。
少し脇道になりますが、「〜は」は厳密には主語を示すのではなく、その文が何についての話かを掲げる印だ、という見方が日本語の文法にはあります。文法学者の三上章が『象は鼻が長い』という本で論じたもので、この題の文で長いのは鼻であって、象そのものではありません。「防災訓練は」もまさにその使い方で、だから書き手は違和感なく書けてしまい、読む側だけが「訓練が務める?」と引っかかります。こういう文は「防災訓練については」と話題であることをはっきりさせ、行為者の違う二つを別の文に分けると直ります。
今回の防災訓練については、当日の参加者から出た意見をもとに集合場所を見直します。来年からは、各棟の持ち回りで誘導係も務めていただきます。
文頭の主語と文末の述語だけを拾ってつなげて読むと、向きのずれは見つかります。 「防災訓練は、務めていただきます」と口に出せば、合っていないことにすぐ気づけます。
主語は、迷うところにだけ
主語をはっきりさせるほどよい、とはなりません。日本語は主語を省ける言葉で、省いたほうが自然な文のほうが多いくらいです。「当番の方は、まずゴミ集積所の鍵を開けてください。収集が終わったら、当番の方はネットをかけ直し、最後に施錠をお願いします」と、同じ「当番の方は」が二度顔を出すとくどく、二度目を省いて「収集が終わったら、ネットをかけ直し、最後に施錠をお願いします」と流したほうが読みやすいです。
省けるのは、読んだ人が迷わず同じ主語を補えるとき。管理員さん・住民・業者のように行為者が入れ替わる場面で省くと、「これは誰の動作か」を探させてしまうので、そこは残します。手を入れる場所は、骨組みが遠くて読み直しが起きるところと、誰の動作か迷うところ。この二つ以外の文に主語をそろえて回っても、読みやすさはほぼ変わらないと思います。
回覧板は、エレベーターを待つ間や、郵便受けの前で立ったまま読まれます。その数十秒で「屋根は直った」「集合場所が変わる」と伝わるかどうかは、文頭の「誰が」と文末の「どうした」が近くにいるかで、かなりの部分が決まります。長い説明を抱えた一文を書いてしまったら、主語と述語だけをつなげて一度読んでみる。素直につながれば、説明を後ろの文へ回すだけで済みます。
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