間違えやすい日本語 / 第61回
「存亡の危機」は実は正しい?「存亡の機」との違いを確かめる
「地域の劇場が存亡の危機にある」。この文を見て、「存亡の機に直すべきだ」と言われたことがあるかもしれません。しかし、「存亡の危機」は、現在の辞書にも用例がある表現で、一律に誤りとは言えません。
「存」と「亡」があるから矛盾する?
「存亡」は、存続することと滅びることです。そのため、反対の意味を含む語に「危機」を付けるのはおかしい、という説明があります。
けれど、文全体で表しているのは「存続できるか、滅びるかが問題になる危険な状態」です。「存」と「亡」を一字ずつ分け、それぞれに危機を結び付けなければならないわけではありません。
毎日新聞校閲センターの2025年の解説は、『三省堂国語辞典』第8版が「存亡の危機」を用例として載せることなどを紹介しています。古い正誤解説だけを根拠に直すと、現在の語の扱いを見落とす場合があります。
「存亡の機」も間違いではない
「機」は時機、機会のこと。「存亡の機」は、存続するか滅びるかの重大な時機を表します。「存亡の危機」を認めるからといって、今度は「存亡の機」が「危」の脱字になるわけではありません。
「存続の危機」も使える表現です。残り続けることが危ぶまれる、という意味が明確になります。
運営費が足りず、劇場の存続が危ぶまれている。
こう書けば、どの点で危険なのかが具体的に分かります。「存亡の危機」という表現が正しいかどうかと、実際の状況を詳しく伝えられているかは別の問題です。
単に一公演が中止になっただけなら、劇場そのものの存亡と呼ぶのは大きすぎる可能性があります。字の組み合わせを疑うよりも、存続そのものが問われる状況なのかを確かめると、言葉の強さも適切になります。
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